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sweet home〜scene5〜
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『やから奥さんにしたいなって思ったん』
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その言葉にウソはちょっともない。
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すーって真っすぐ彼女の頬を涙が落ちてく。
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こんな風にいっぱい色々資料を作って、プレゼンか?みたいに俺に話しをするって事は、彼女の中で答えはしっかり出てる。
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でもちょっと自信がなくて…。それ。
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その自信が持てないのは
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『俺がおるから』
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『俺の事を思ってくれとるから』
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ちゃんとわかっとるよ、そんなん。
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やから、俺がする事はただ一つ。
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『大丈夫』って背中を押してあげること。
ただそれだけ。
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「今、それ言うのナシ…ナシだよ壱馬くん」
両手で顔を覆うと、俯いて。
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「妊婦さん、涙もろくなるって、何かで読んだな、俺(笑)」
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ティッシュを取って箱ごと彼女の前に置くと、何枚も手にとって鼻かんでて。
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真っ赤な目と鼻。
それと一緒に100点の笑顔をくれる。
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俺はやりたい仕事をやってる。
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彼女にも生きがいやと思える仕事がある。
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その価値は同等やと思うから。
…俺が特別やとは思わん。
やから何も『ごめん』なんかじゃない、そう思う。
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『子供がいたって仕事ができるその方法を考えよう』っていうたんは俺。

『どっちかを諦める』ってそうじゃないって思うから。
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茜さんの仕事に対する姿勢は、普段の緩い感じしか知らん俺からしたらほんと別人?って位やし。
そこにはーミリの妥協もない、それも知ってる。
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「『妊婦さんだから』とかそういうの、嫌なの。会社に行ってる以上は、それは違うって思うから。だから、ちゃんとする!いつも通りがんばる!」
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妊娠してから、よく言うてるそれ。
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自分に言い聞かせるみたいに言うてて。
『甘えたくない』ってそういう意味やって。
俺にはそう聞こえてた。
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やから俺も…。
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精一杯家事も育児もする、手伝うとかじゃなくて、何なら『俺メインでやったろうか』位に思ってる。
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それが現実的ではないんはもちろんわかってる。でも気持ちはそれ位の気合で。
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でもやっぱり、2人では限界があるって思うから。
そこもちゃんと話し合った。
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「茜さんのお父さんお母さん、うちの親。後、ベビーシッターさん。頼れるものは何でも頼ろうな?」
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それは甘えてるわけじゃない。
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お互いに、自分の中にある大切な要素を守るために…そういう事やから。
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どっちかが犠牲になる…それは違う。
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「プレゼン、いらなかったかな(笑)」
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「ほんまやで。その時間あったら、茜さんもお昼寝できたのになぁ」
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「ん…仕方ないよ。どっちにしてもドキドキして眠れなかったもん」
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「晩御飯の準備までさ、まだ時間あるやん?もうちょっとお昼寝しよ? 今度は一緒に」
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「えっ?いいの?私本気で寝ちゃうよ?安心したから(笑)」
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「ええよ、晩御飯俺作るし」
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「そうなの? じゃあ…あっ、でも」
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「ん?」
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「やっぱり起こして?1時間で」
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「そうなん?」
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最近眠たい眠たい言うから、お昼寝したらええって思ったんやけどな。
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チュッて、不意に触れられた唇。
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「2人きりの時間はさ…もうちょっとだから。
寝てたらもったいないもん。だからお昼寝は 1時間」
そう笑って寝室へと向かう。
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「えーちょっと、今それ言うのなしやんか…」
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彼女の背中をおっかけて、寝室へ向かうとエアコンのひんやりした空気が、心地よかった。
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茜さんの背中から回した手はおなかの上に。
そこに重ねられた小さい掌。
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「一時間経ったら起こしてよ、壱馬くん」
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「ん一、約束はできんかな…」

「えっ?」

「だって…俺。今、めっちゃ幸せやもん」
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2人で過ごす時間は、きっと限られてる。
やから、満喫したいんやって、俺。
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2人でお昼寝…それも大切な時間。
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next
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幸せ一甘い一。自分で描いて、自分が一番幸せ気分を味わえる(笑)なんか、すいません。 himawanco