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俺の最大のライバルは、今隣でアンパンマンラムネを食べてる、俺にそっくりなコイツだ。

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sweet home〜scene 1〜
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「抱っこしてみて下さい!壱馬さん!」
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「えっ?俺?えーの?」
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「はい!」
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強引に渡された、まだふにゃふにゃの生まれたての赤ちゃん。
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正樹さんと奈々さんの娘さん。
くっきりした顔立ち。
「マジか?」って思う位の睫毛の長い女の子。 2人のいいとこどりでしかない。
首もまだ座らないそのお姫様を腕に抱くと、感じた事もない触感。
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「むちっ」
「ほわっ」
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なんて形容するんが正解なんかわからんけど、柔らかくて、ふにふにで。
俺を真っすぐ見つめる小さい黒目。
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「あっ、笑った…」
絶対泣かれると思った。
やのに、腕の中に居るお姫様は俺を見て笑ってる。
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『結局イケメン好きやん』
『めっちゃ面食いやん』

って正樹さんが突っ込むのが聞こえる。
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茜 side
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「俺見てさ、笑ってくれたん。指な…ギュって…」
こんなにテンション上がってる壱馬くん、レアで。
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正樹さんと、奈々ちゃんの赤ちゃんのお祝いに行ったその日。
あれだけ、オシャレで、雑誌の中ですか?みたいな高橋家は、一気に赤ちゃん仕様にお部屋が変わってた。
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「ちょっと掃除行き届いてなくて、あっ、メイクするの忘れた…」
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「大丈夫。奈々ちゃんすっぴんでもかわいいもん」
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すっぴんににスウェット姿の奈々ちゃんは、もうしっかりお母さんって感じで。 お化粧してなくても、ほんとキレイだった。
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ミルクを飲ませてる正樹さんは、もう顔の力が全部抜けてるの?って位デレデレで。
2人で生活してる時もそれはそれですごく幸せそうだったけど、赤ちゃんがいるその『家族』って感じの場所は、あたたかくて優しい場所だった。
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壱馬 side
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「ねぇ、壱馬くん」
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家に帰ってきて、ご飯を食べた後ソファに座る俺の隣ぼすっと座った。
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「ん?」
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スマホに目をやったままそう返事をすると、「決めました! 報告します!」って。
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「はっ?」
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出た、このパターン。
事後報告なやつ。自分の中に結論はしっかりでてて、もう、俺に選択肢はないやつ。
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こないだは、「洗濯機買います!」やった。
その前は「来週のお休みディズニー行きます」やったっけ。
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「ん?何?次は、何買うん?どっか行くん?」
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「えっと…積極的に、子供を作ろうと思います!」
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「ん?…えっ?はっ?!」
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「いや、赤ちゃん…欲しいなって。ほら、年齢的な事を考えたらさ?私…2人は子供が欲しいの…なら、あんま時間ないよなって。だから積極的に?みたいな」

もう、投下された爆弾がでっかすぎて。
俺、どう反応したんかも覚えてない。 たぶん口も目も大きく開いたままやったと思われる。
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「ゃ…?だった…?」
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いつもとは違う、小さくて伺うようなその声。
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『決めました』っていう割に、自信なさげっていうか、俺の反応をめっちゃ気にしとるっていうか。
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「あのねっ、だってっ。壱馬くん、すんごく今日さ、楽しそうだったからっ。赤ちゃん 抱っこしてるの見てさ、『パパ壱馬』いいなってそう思ったのね…」
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俯き気味なその顔にこみ上げる笑い。
もごもご自信なさげなその感じ。
珍しくて、おもろい。
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「俺…女の子がええな」
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「えっ?」
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「ほら、いつやったか『チビ壱馬』が欲しいみたいな話したやん。 でもさ、俺今日思ったんよな。やっぱ、女の子もええなって。めっちゃかわいかったん やって」
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「やだ!」
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「えっ?」
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「だって、私、壱馬くんと、『チビ壱馬』に取り合いされたいの。それが夢なの」
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「はっ?」

「(笑)ウソ。どっちでもいい。 結婚してさ…2人で一緒にいるのもすごく楽しいけど、でも、ここに子供ができたら、もっ と楽しいかなって今日、正樹さんと奈々ちゃん見て思ったの」
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「ん、俺も。そう思う」
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ほんまそう。
茜さんと2人の生活も、そりゃもう毎日ケラケラ笑ってられて、これはこれで楽しいんやけど、でも家族が増えたらもっとって。
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「なぁ、茜さん?積極的に?ほんま? さっきそう言うたで?」
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「えっ…あっ…えっ?」
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一気に真っ赤になってく顔。
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「じゃあ、積極的にな…がんばりましょうか。奥さん」
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手を引いて立ち上がらせて、がぱって抱き上げた体。
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「わっ!」
ぎゅって抱きつかれた首元。
まんまるくなった黒目がすぐそこで。
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「めっちゃ好きやで」
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「ふふっ(笑)久々聞いた」
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「そろそろ忘れとる頃かなと思って(笑)」
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「「(笑)」」
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彼女を抱きかかえたまま寝室のドアを足でバンって開けた。
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空から降りてきたのは茜さんの怨念かな(笑)
『チビ壱馬』が次の年、我が家にやってきた。
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これは、そんな我が家のお話。
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...next
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書きたくなっちゃいました『チビ壱馬』のお話(笑) ちょっと次作のロング、詰まり気味で。気分転換。himawanco


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