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結婚生活のすすめ〜scene14〜
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9月6日。
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この日は彼女の誕生日。
…そして俺ら2人にとって大切な思い出が、今日加わる。
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夏を越えて、真っ青だった空の色が薄くなって、浮かぶ雲の位置が高くなっていってる。
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肌を掠める風に湿度が少しずつ失くなって、 秋が近づく…。
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俺と茜さんの両親。
そして、THERAMPAGEのメンバー、耕平さん。
鹿児島のおじさん、おばさん。
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俺ら二人の事を大切に思ってくれる人たちに囲まれて、この日を迎える。
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「おはようございます。川村様お待ちしてました」
スーツ姿の奈々さんに笑顔で迎えられて。
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「新婦様はこちらで」
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「あっ、…はい。じゃあ壱馬くんまた後で」
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「ん…」
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そっか、控え室は別々か。
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奈々さんにエスコートされて奥の部屋に向かう彼女の背中を見送る。
.『緊張してます』ってその感じが在々と伝わってきて、俺の緊張も増す。
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「新郎様はこちらで」
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「はい」
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通された部屋で、少しのメイクと、彼女と選んだタキシードに袖を通して。
鏡に映る俺は、『ん…めっちゃ緊張しとるな』それが自分でもはっきりとわかる。
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コンコン。
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「はい、どうぞ」
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そう声をかけると、ゆっくりと開いたドア。
正装した耕平さん。
その後ろに、鹿児島のおじさんおばさんが「こんにちは」って顔を覗かせた。
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「緊張してる?」って耕平さんが俺の側へ。
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「あっ…まぁ、割とガチ目に」
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「(笑)ドームをいっぱいにするアーティストでも緊張するんだ」
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「茜さんもいつやったか、同じ事言うてました、それ。それとこれとは話しが別なんで(笑)」
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「まぁ、適度な緊張感って大事だから。きっと紺野はもっとガチガチだろうけど(笑)…じゃあ、楽しみにしてるから」
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「はい」
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「壱馬くん?」
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背を向けようとした耕平さんが、足を止めて、俺に近づくと、ガバッと抱き寄せられた。
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「幸せに…、紺野を必ず幸せにするって、俺に誓え」
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咄嗟にそんな風に言われてすぐに返事は出来なくて。
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「新入社員で入ってきてから、俺はずっと紺野を見てきた。ちょっと変わってて、でも、誰より真面目で、
誰にも、何にも真っ直ぐで、…嘘がない。
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必ず幸せになって欲しいって、そう思うから」
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グって、力が込められた掌。
…知っとる。耕平さんが茜さんの幸せを何よりも望んでるって。
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「…誓います。約束します。誰よりも必ず茜さんを幸せに」
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ゆっくり離された体。目尻に寄る皺が優しかった。
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『うん』て頷いた耕平さんがすっと俺の前からいなくなると、その後ろにいたおじさんとおばさんが俺を見て優しく笑ってくれてて。
おばさんは、ずっとハンカチで涙を拭ってた。
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「早すぎですよ、泣くん(笑)」
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「だって…、色々あったから。よかったね、壱馬くん。」
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「はい、ほんと色々ありがとうございました」
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「今日は、呼んでくれてありがとうね」
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「あの甑島での1週間が俺等の始まりなんで。ずっと大切にしていきたいあの時の思い出には、外せないんで、おじさんとおばさんは」
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「もー、またそんな泣かせる事っ…」
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顔は笑ってるのに、おばさんはポロポロ涙を流して。
その小柄な肩をおじさんが、ポンポンて叩く。
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俺ら2人は、ほんまたくさんの人のおかげで、今日がある。
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きっと2人だけでは乗り越えられなかった、って大げさじゃなくてそう思うから。
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…next
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さぁ、いよいよ結婚式。クライマックス!!himawanco