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結婚生活のすすめ〜scene10〜
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「「おじゃましました」」
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「いつでも、また遊びに来てな。今度ゆっくり4人でメシでも」
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「ん、是非本当に来て下さいね?あっ、壱馬さん、次はちゃんと来て下さいね、式場でお待ちしてますから」
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「あっ、はい。必ず」
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「大丈夫、奈々ちゃん。次は首に縄つけてでも連れてくから(笑)」
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「茜さん、こわっ。壱馬くん、頑張って(笑)」
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「…頑張ります(笑)」
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2人に見送られて、駅まで向かう夕暮れの道。
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もうすぐ夏…。そんな空の色。
太陽が大きくて、オレンジが濃くて。
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「茜さん、今日、収穫あった?」
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「ん、すごくあった!家事動線、ちゃんとわかったよ」
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「ふふっ(笑)俺もわかった」
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「あのさ…、壱馬くん」
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「ん?」
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「私ね…男の子が欲しいの」
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「はっ?」
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もういきなりすぎる爆弾に、思わず足を止めた。
いや、とんでもない事を言い出す事には、だいぶ慣れたはずの俺も、さすがにこれにはびっくりするって。
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目をパチパチさせてるであろう俺を見て、ふふって笑うと、「びっくりしたでしょ」って。
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「私、今は正直、仕事でいっぱいいっぱいなの。
でも、だからって壱馬くんとのこれからとか、何も考えてないわけじゃなくて。ちゃんと考えてる…。
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私、一人っ子だから、子供は2人以上は欲しいし。 壱馬くんに似た、男の子が欲しいなって思ってる。
『チビ壱馬』にしたいの、私(笑)」
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「…ん…そっか…そうなんや」
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どう言うのが正解とかわからんくて、そんな返事しかできんくて。
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「あっ、でも洋服は白と黒ばっかは着せないよ? ピンクの似合うかわいい男の子にしたいの(笑)」
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「茜さん?どしたん?急にそんな話」
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「んー、私さ、欲張りなのかなって思って…」
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「ん?」
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「仕事もしたい。壱馬くんとお散歩もしたい。
一緒にディズニーも、スタバも行きたい。
でも、いつかはチビ壱馬も…って思ってる。
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でも全部は無理かなぁとも思ってる。
私…、器用にはできないしさ、何もかも欲しがったら、だめかなぁって。
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奈々ちゃんが仕事辞めて子育てって聞いてさ…、そっか…ってなった。やっぱり無理かなって。私には…」
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そう少し俯いたその顔。
あんま見ないその表情と、自信無さげな言葉。
でも、それは俺とのこれからをちゃんと考えてくれとるからこそやと解る。
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「そうか?全部余裕で手に入るやろ?何言うてるん」
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「っ…」
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「チビ壱馬連れてディズニーも、スタバも行けるで?お散歩やって、3人で行けばええやん。
仕事やって…、続けたらええやん?
何で何かを諦める必要があんの?お母さんになったら何かは諦めるもん?」
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「ん…普通そうだよね?」
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「『普通』?よぉ言うわ(笑)
茜さん、だいぶ変わってるで?自覚あるやろ(笑)
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子供がいてても仕事できる方法、考えたらええだけの事やん?」
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「ある…かな?そんな方法…」
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「珍しいな、そんなん言うん。いっつもみたいに言わんの?」
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「ん?」
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「…大丈夫やで?俺がおるやん。
楽勝やで、そんなん」
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そう言って握りなおした左手。
「ふふっ」っていつもみたいに、優しく笑う横顔にオレンジの光が当たる。
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俺らの後ろに伸びた長い影。
いつか、この影がもう一個…、いや二個増えて。
そんな未来が俺も欲しい。
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「そっか、楽勝だよね。ん、楽勝!
よしっ、じゃあ帰ってごはんにしょ!何にする?今日。 何食べたい?」
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「んー、かつ丼」
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「えー、だから言ったじゃん。わざわざとんかつ揚げて、たまごは面倒だって」
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「何食べたい?って聞いたやん」
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「だってー」
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「じゃあ、とんかつ揚げるとこまで俺やるから、そっからは茜さんがやってや」
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「よし、じゃあそれで。スーパー寄ってこ。あっ、壱馬くんいるからビール買ってこ、お願いします」
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「6缶パックまでやで?ケースは無理やで?」
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「(笑)じゃあ500×6ね」
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「3キロやん…」
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「(笑)」
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正樹さんと奈々さん夫婦みたいな関係も素敵やってそう思う。
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でも、俺らは。
一緒に並んで歩いて、忘れ物、落とし物をした時は2人で足を止めて。
少し戻って…そしてまた笑いながら歩き始める。
そんな関係でいたいと思うから。
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俺は、笑ってる顔も、慌てて余裕なくしてる顔も、たまにあるかもしれん悲しそうな顔も、ずっと隣で見てたいってそう思う。
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どんな時も一番近くに、俺は居たい。
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…next
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この高橋さん御夫婦、「菅田将暉、小松菜奈」さんをイメージして登場させました。自然体で、素敵やなって思って。    himawanco