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結婚生活のすすめ〜scene6〜
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「謝らな…」
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ちょっと一旦落ち着こう…。
そう思ってグラスにお茶を注いでカタンてテーブルに置くと、俺の足に何かが当たる。
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「ん?」
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持ち上げた紙袋には、雑誌が2冊。
一冊は俺でも知ってるくらい有名な結婚情報誌。
もう一冊は…何やろ?
表紙のソイツと目が合う。
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「本物、ここにおるのに、何でまた買うん」
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俺が表紙の雑誌。茜さんが、ちょっと照れながらそれを買うのが簡単に想像できて。
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『何かね、連れて帰ってー!って顔するんだもん。これは私のお小遣いからだから、ね?いいでしょ?』
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本屋で俺が載ってる雑誌を見つけると、買わずにはおれんらしくて、部屋のブックスタンドにはそれがキレイに並べてある。
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整理整頓が苦手なはずやのに、そこだけはキレイに並べてあって、彼女の想い?気持ち?を感じられて、本人には伝えてないけど、俺の自慢の場所。
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『なんか、私、推し活してる気分だなー、これ』
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『旦那を推してるん?(笑)』
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『激推しです!』
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『ありがとうございます(笑)』
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そんな話、この間したな…。
真剣な顔して、雑誌を並べる彼女の後ろ姿を愛しいと思いながら見てたなって思い出す。




♪~♪〜
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俺を呼ぶその音。
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『茜さん?』って思ったけど、それは違って。
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今日、会場の予約をしてくれたメイクさんからで。
やばっ。 そっちにも連絡せなあかんかったやん。
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「もしもし、お疲れ様です。あのっ、すみません。…今日」
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「壱馬、今日、仕事なんだって?」
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「えっ?」
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「奥さん、一人で来たって連絡あったけど。
『準備してもらったのに、すみません。主人、仕事が急に入ってしまったらしくて、連絡あったのに、私気づくの遅れて』って、何回も謝ってたらしい。
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『せっかく来たからドレス、何着か着てみませんか?』ってプランナーが言ったんだけど。
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『次、主人と来た時で…。私、自分のセンスに自信なくて』って笑ってたってさ。
お前に見てもらいたかったんじゃないのか?
次は仕事調整して一緒にいけよ」
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「あっ、はい。次…また連絡させて下さい」
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ホーム画面に戻ったスマホ。そこにはプロポーズの日に見た、たんぽぽの写真。
彼女を『幸せにする』ってあの日の俺は、誓った。
やのに…。
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俺のせいにしたらよかったやんか。
『 家で寝てます』って言えばよかったのに…。
本当の事言うたらよかったやん。
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俺の右手…そこに映る俺は、スイッチ入って、ちょーかっこつけてて。
でも、ほんまの俺はそんなんやない…。
少なくとも今は。
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「かっこつけんなって。…最低やぞ、お前」
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それをブックスタンドに立ててから、スマホだけ握りしめて彼女を追って、家を飛び出した。
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『幸せにする』
彼女にも、自分自身にもそう誓ったから。
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茜さんがおらな、俺は幸せにはなれんのやって。
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…next
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