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結婚生活のすすめ〜scene4〜
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約束の日曜日。
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昨日の夜ゲームしてたのは知ってる。
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『配信するから、今日はマンションに戻る』って連絡あったし。 だから式場の前で待ち合わせしよってそんな約束だった。
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「ドレスだって…ダメだ、笑っちゃう、私(笑)」
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待ち合わせよりもだいぶ早く家を出てしまって…ふらっと入った本屋さん。
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《本日発売》
そこに積まれてる雑誌の表紙は壱馬くんで。
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「ふふっ、かっこつけてる…」
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そんな彼を横目に見ながら2つ奥のコーナーで足を止める。
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「何か、これを買うのって幸せの絶頂って感じだな(笑)」
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分厚い結婚情報誌を手に取った。
テレビCMで、幸せの象徴みたいにして扱われるその雑誌。
まさか自分がこれを買う日が来るなんて思ってもなかった。
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「あっ…でもこれもやっぱり買っちゃお、ん。
買わないとかないよ。連れて帰ろっ」
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それを持ってレジに向かう時、やっぱり表紙の壱馬くんも気になって結局2冊。
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その重みですら、何か嬉しくて。
近くのスタバに入って、隅っこの席で分厚いその雑誌を開いた。
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表紙を開いたそこには、長いベールを引きながらバージンロードを歩くお嫁さんの後ろ姿。
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「うわぁ…これ素敵」
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細身のドレスを身にまとったモデルさん、とってもキレイだった。
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『壱馬くん、こういうの好きかな…』
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約束よりも15分前。
外で待ち合わせって、何気に初めてで。
ドキドキして、スマホのインカメで一応ちゃんと確認。
そこに映る私はふふって笑ってて。
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『やっぱり笑っちゃうよね(笑)』
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約束の17時。
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その時間になっても、壱馬くんは来なくて。
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今日仕事じゃないはずなんだけどな…。
スマホを鳴らす事3回。
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心配なのもあるけど、連絡が取れない事に普通にイライラってしてきて。
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その時、式場の中から出てきたカップル。
ほんと、幸せの絶頂だってそう感じた。
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《一番最初に着たさドレスがかわいかったと俺は思うけど…あーでも、最後に着たのもさ、よかったよ》
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彼がそう言うと、彼女が少し照れながら「ふふっ」って笑って。 .
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彼が彼女の持ってる紙袋を黙って持ち上げて。
『持つよ』ってわざわざ言わないその感じが素敵だった。
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「川村様ですか?」
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そのカップルの後ろから出てきたスーツ姿の女の人にそう声をかけられて。
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「やっ、違い…あっ、そうです」
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「ふふっ(笑)、新婚さんあるあるですね」ってそう笑ってた。
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「初めまして、プランナーの高橋です」
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「あっ、…川村です」
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「旦那様、遅れられてるなら、よかったら中でお待ちになりませんか?」
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「…はい、じゃあ」
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スラっと背が高くて、顔がほんとちっさくて。
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『わぁ…美人』素直にそう思った。

私よりも年下だな…、でも指輪してるって事は結婚してるのかな。 長い指にキラキラ光るシルバーリングが眩しかった。
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「どうぞ、こちらです」
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「すごー」
そう自然に口から出た。
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「ここがチャペルです」 高橋さんに連れられて開かれた扉の奥。
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そこは外とは切り離された空間で。
ヨーロッパの教会みたいに天井が高くて、ステンドグラスがキラキラしてた。
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「ここ、太陽が当たる時間だと、ほんとキレイなんですよ。光の帯が、天使が降りてくるみたいに見えて。
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新婦様がお父様と歩いてるのを見ると、仕事なの忘れて毎回泣いちゃって、上司に怒られます(笑) 『お前は仕事中だろ!』って」
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「私も絶対泣いちゃいます、それ。『無理ー』ってなります」
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「ふふっ(笑)、同じですね」
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「「(笑)」」
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そこから、館内を2人でおしゃべりしながら歩いてるうちに、壱馬くんが遅刻してるイライラとか忘れちゃう位、高橋さんとの話しは楽しくて。
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美人だから、ちょっと近寄りがたいかなって思ったけど、表情がコロコロ変わって、 笑う時に大きな口をあけて笑う子。
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感性がよく似てるっていうか、何か不思議な親近感を感じる子で。
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「旦那樣…」
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そう言われて、はっと思い出してスマホを取り出すと、そこには相変わらず何の連絡もなくて。
約束の時間もう40分以上過ぎてる。
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「お忙しいんですね、きっと」
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「あっ…、すみません、連絡来てました。仕事みたいで…。音消してて気づかなかったです。ほんと、すみません。せっかく時間取ってもらったのに」
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ウソをついた。
連絡なんか来てなくて。
でも、そう言わなきゃ、私惨めだし…。
一人で結婚式場を見学してるなんて、肩身が狭いでしかない。
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それにやっぱり、『壱馬くんが悪い』とは言いたくなかったから。
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「いや、全然大丈夫です。次は是非お二人でいらして下さいね?あの…よかったらドレス…」
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高橋さんが向けた視線の先には、開かれた衣装室の扉。
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「すみません…あの、私」 彼女の側に寄って、小さい声でそっと呟いた。
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…next
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