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結婚生活のすすめ〜scene2〜

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「ただいま」
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「もー!!」
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玄関ドアを開けた瞬間に聞こえた怒りMaxな声。
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どした、どしたって慌ててリビングのドアを開けると、お気に入りの羊のふわふわクッションが、これでもかって位ぺっしゃんこに潰されてる。
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「あ…茜さん?」
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見たらあかんやつかも…と思いながら、とっさに声をかけてしまって。
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俺のその声に振り返ると「あっ、おかえり壱馬くん」って、目をパチパチってさせた。
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ぺしゃんこな羊がまた元通りのふわふわ感になっていくのをちゃんと確認。
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『よかった…復活』
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「どしたん?」
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「ん?何でもない。ちょっとね、ん…。大丈夫。あ一!!晩御飯の買い物忘れた!ビールも…あぁ…」
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何でもないことないやろ…晩御飯忘れる位やのに。
絶対欠かさないビールやって忘れとるし。
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仕事復帰して、多分色々嫌味も、納得いかんことも言われたりしとるんやと思う。
明らかに帰ったら機嫌が悪い日もあるし。
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今日がまさにそれやと思われる。

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「散歩行くか?桜、そろそろ満開やって陣さん言うてた」
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「ん…行く! お散歩行こっ!」
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彼女が機嫌がよくない時の俺の対応策、その一。
お散歩。
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手を繋いで歩き始めたら、少しずつ機嫌がよくなり始めるのがわかる。
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「ほんと、桜、キレイ…」
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「帰ってくる時も咲いてたやろ?」
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「あー、帰りはね…まっすぐ前しか見てなかった」
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「仕事…何かあった?」
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「ん?まぁ、色々ね…言う人は言うから。でも大丈夫」
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「ほんまに?」
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「ん、大丈夫。全然楽勝だし?だって私『川村茜』だもん、無敵でしょ」
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イマイチよくわからん理由やけど、俺との結婚が何か前向きになれる要因の一つならそれで…。
ギュッと握り直した手。
彼女が嬉しそうに隣で笑ってる。

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『手を繋いで外を歩く』
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それが普通になった事がシンプルにめっちゃ嬉しい。
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多分それは彼女も同じで…ふふんっていつもご機嫌な時に唄ってる鼻歌が聞こえる。
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そろそろ…。
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「壱馬くん、おなかすいたね」
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ほら…(笑)
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ご機嫌がよくなると、おなかすいてる事に気づくらしい。
っていうか、おなかがすいてると、人間やっぱりイライラするもんやなって事も彼女と付き合うようになって、身をもって知った事。
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機嫌が悪い時の対応策、その二
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「今日はコンビニでえっか、セブン? ファミマ?」
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「んー、ファミマ! スフレプリン食べたい」
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こんな時は、無理してご飯を作ろうとか、そういうのはナシ。
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『一緒にいられる時は、楽しく、緩く、いっぱい笑う』
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「茜さん?卵焼きのサンドイッチあるで?」
そう声をかけると一瞬で、更にご機嫌。
単純やなって思うけど、かわいいとこ。
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卵焼きのサンドイッチと、デザートのスフレプリンと、マストのビールを買って、また手を繋いで歩き出す。
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「茜さん?とりあえずさ、引っ越す?
まぁ、今も一緒に暮らしてるようなもんやけど…、なんかほら、新居的なやつ」
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「あっ、ん!だよね。でも、私あんまお給料高くないからさ…」
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「まさか、払う気?(笑)」
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「えっ?違う?」
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「ん、多分違う。俺、奥さんに家賃払ってもらうつもりは、ないんやけど…」
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「そっか…そうだよね、あーそっか…」
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天然なんか、世間知らずなんか。
彼女とおったら、俺の今まで生きてきた『普通』って概念って、何やったんやろ?って思う事も多くて。
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「じゃあ、食費は私が払う?」
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「いや、あのさ…」
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「全部壱馬くんにおんぶに抱っこは嫌なんだよ、私」
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「…そっか」
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そんな考えもあるか…、そっか。
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何かそういうとこが彼女らしくて…、好きやなって思うとこ。
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「家事も、一緒にやって欲しいし。苦手なのはお任せしたい、壱馬くんに」
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「おっ…ん、やる。やるで?何したらええ?」
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「洗濯モノ畳んで欲しい、Tシャツ上手に畳めないし、私。靴下さ、片方なかったら探して欲しい」
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「ふふっ(笑)それな、了解。そこはじゃあ、俺やるな」
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苦手なとこは補い合いたい、そう思う。
まぁ、単純に洗濯モノが失くなるんは嫌やし(笑)
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「引っ越しかぁ…、新しいおうちか…、いいね、ん。あっ、こたつ持ってっていい?」
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「ふふっ(笑)ええよ?もちろん。
俺も、あいつは連れていきたい」
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そりゃ、今の彼女の部屋よりはきっと広い部屋に引っ越す。
でも冬になったら、こたつの中のあの小さい空間で、彼女の隣に座って一緒にごはんを食べたり、くだらん話しをしたり。
それはこれからも大切にしたいって思える時間やから。
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「じゃあ、次のお休みさ、一緒部屋探しに行こうか?」
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「ん、楽しみ」
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まずは、新居。 それで…後何やろ。
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まぁ、二人のペースでええか。
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俺らには、『俺らにしかない』それがいい。
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