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still…〜last scene〜
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「よし、帰ろか。おじさん達に報告せないかんしな」
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「ん」
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並んで歩き始めると、彼女が左手を空へとかざす。
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「指輪1個でさ、何か全然違ってみえるよね。『あー、結婚するんだな』ってなる」
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「ん、確かにな」
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「ひょっとして、これ、すごい高い?」
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「はっ?値段の話しはええから」
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「ごめんごめん。一瞬いくらだったんだろって過った(笑)」
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「ほんま、そういうとこやで、茜さん。まぁな…、給料の何ヵ月分とかっていうやん?」
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「えっ?ほんと?すぐ外す!失くしたら困る!」
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「何で失くす前提なんよ。ずっとそこにしとかな意味ないやん。婚約指輪なんて」
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「そっか…、だよね」
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「死ぬまで外さんでよ?ってか、死んでも外さんで」
「…んっ、わかった!あっ…太ったら物理的に抜けなくなるよね、これ」
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「太る気やろ、それ(笑)」
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「えっ?イヤイヤさすがに、それは…」
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「目、泳いどる!当たりやんか。ほんまに羊になる気ちゃうやろな(笑)」
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ギュッて握った彼女の左手。
金属独特のヒヤっとした感覚が、新鮮やった。
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やっとここまで来た。
嬉しいっていうよりは、これで一緒にずっといられるっていう安心感の方が強くて。
手を握れる場所に、ずっと…。
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おばさんちまでの帰り道。
左側に海、右側に広がる拓けた視界。
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「わー…キレイ…」
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俺の右手を解いて、タンタンってまっすぐ彼女が走ってくその場所。
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月の光に照らされたそこは、視界一面に広がるたんぽぽ。
黄色がくっきり浮かぶその景色は、絵本の中みたいなそんな色合い。
空の黒、月と星から伸びる淡い白い光、タンポポの黄色、葉っぱの緑。
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「すごい…ね?」
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「…ん」
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見たこともないその圧巻の風景に、2人でただ立ち尽くしてた。
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「この中にさ、私と壱馬くんがさ、『ふー』ってやったあの時の子たちもいるよね」
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「ん、おるかもな」
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「いるよ、絶対」
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「あの時さ、『一緒に…』って」
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「あっ…覚えてるんだ、あれ」
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「当たり前やん。『えっ?何て?』ってなったんやから」
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「何か、あの時は『違う』って思ったの。『今じゃない』…って」
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「ん、俺も何かそんな気したから、あん時あれ以上言えんかった」
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「…でも一緒に見れたね、たんぽぽ」
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「ん」
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『一緒にたんぽぽを見たい』
そう思ったあの時言葉にできなかった願い…それはちゃんと叶った。
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「あっ、綿毛」
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黄色がいっぱいの中、隅っこに一本だけあった綿毛。
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「やっぱり、一人位はいるよね、こういう子(笑)」
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「やな。一緒に『ふー』しとくか?」
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「んーん、今日はいい」
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「何で?」
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「一人は嫌かもじゃん。みんなで一緒にもうちょっと居たいかもだし。
その時が来たら、飛べるよ、きっと。それまでは…ね」
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そう言って立ち上がると俺の手をギュッと握った。
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彼女の笑顔の向こうに優しく光を放つ大きな月。
この光、優しい風の匂い。
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一生忘れん。
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まだ、そこにいてもいい…。
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飛べるようになるまで、一緒にいるのも、それもいい。
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飛べなくたっていい。
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俺らはまだ途中。
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幸せになる途中。
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これからもっと、もっと、彼女と一緒に。
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…二人で幸せになる。
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still…
...fin
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壱馬&茜ちゃんのお話。本編、これで完結です。
いかがでしたか?よければ感想聞かせて下さい。
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『周りの人が、応援したくなる2人』が今回のテーマでした。
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ちょっとお休みしてからですが、もう少しこの2人を描きたいなって思うので、アザーストーリーも…と。
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いつも私のお話を読んでくれる皆さんにたくさんの『ありがとう』を。himawanco