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still…〜scene46〜
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1週間後。
俺らは、約束の場所…出逢った甑島にやってきた。
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「茜さん?行こ?」
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「ん…」
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彼女を誘って、夜の海へと向かう。
東京とは違う澄んだ空気。
浜辺につくと、月の光が海を照らしてた。
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昼とは違う、その景色。
パシャンパシャンて波が優しく打ち上げる音の中、彼女が俺の隣に静かに座った。
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「どしたん?」
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さっきからずっと俯いたまま。
俺が何か言うても「ん」ってそれだけの茜さん。
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こういう…ちょっとかしこまった時、とんでもない事を言うのが彼女で。
なんなら、ちょっとそれを待ってる自分もおったりして。
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「私ね…我慢してるの」
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「ん?」

「一生に一回じゃん、プロポーズって。
だから、壱馬くんがちゃんとそれを言い終わるまで、何も言わないで黙って待ってよって、我慢してる。
空気読めない事言っちゃいそうだもん」
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まっすぐ海を見ながらそう言ってるその横顔は真剣で。
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「ふふっ(笑)」
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その真剣さがもう、面白いでしかなくて。
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「笑わない!!壱馬くん!」
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「はいっ(笑)ごめんなさい!」
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すっと立ち上がって、彼女の目の前、左ひざをついた。
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一生に一回。
やから、とっておきのそれを彼女に。
一生忘れられんプロポーズを。
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膝をついた俺と視線が合うと「えっ…」って瞳が左右に揺れる。
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ポケットから出した、小さい箱。
腕を真っすぐに伸ばして、彼女の目の前で静かに開けた。
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「茜さん…約束します。必ず幸せにする。
ずーっと俺と、これからの未来を生きて?俺は茜さんと生きて行きたい。
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…結婚して下さい」
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波が打ち寄せる音が2回。
何も言わない彼女の顔を「ん?」って覗き込んだ。
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「ふふ(笑)ごめん、やっぱり笑っちゃう。だって幸せすぎるもん」
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『感動して泣く』かなぁって思ってた俺。
茜さんはそんなタイプじゃないなって、やっぱり思い直した。
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「『はい』って返事してくれんと、お預けやで、これ」
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引き戻そうとした俺の手はギュって握られて。
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「えっ?ダメ!ん、結婚する! します!お願いしますっ!」
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「(笑)ほんまに…。そんな返事あるか?」
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雰囲気とか、余韻とか、マジ彼女には無縁かもって思う。
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「はい、お願い!壱馬くん」
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そう言って出された左手。
その手を掬って左手、すーっと薬指に指輪をはめた。
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その瞬間、跳ねるように飛んできた彼女に抱きつかれた体は、体勢を崩して砂の上に転がって。
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大きな月と、俺の間に彼女が幸せそうに笑ってる。
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「壱馬くん!大好き!」
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雰囲気とかそういうのフル無視な、こんなプロポーズ。
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…ん、悪くない。
ってか、いいやんな。俺ら二人らしくて。
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見上げてる彼女がゆっくりと近づいてきて、そっと触れられた唇。
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「結婚してください、壱馬くん」
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「はい、もちろん。…幸せにします」
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手を引かれて起き上がると、ふふって笑う彼女が目の前で。
そっと惹かれあうように同じタイミングで距離を縮めて、もう一度キスをした。
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何も言わなくても、『触れたい』そう同じタイミングで思ったから。
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『よく似てる』
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事ある事に色んな人にそう言われた俺ら。
ほんまに、一緒におるのが必然みたいに、惹かれあった。
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『そんなオシャレじゃないよ、私達は』って彼女は言うかもしれん。
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でも、俺は『運命』やったとそう思う。
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…next is last scene
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このカップルならではのプロポーズでした。
壱馬に膝ついて、パカってやってほしい願望詰め込み(笑)

いよいよ、次回最終話! himawanco


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