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still…〜scene45〜
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耕平さんの背中を2人で見送って、二人取り残されたその場所。   
空を見上げてた彼女は、一瞬目を合わせるとそっと俯いた。
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「あったかいな、今日…」
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「ん…」
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「散歩行こって陸さんが、急にさ。
何言うてるん?ってなったけど。ええなぁ、たまには散歩」
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「ん…」
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「初めて散歩…鹿児島、覚えとる?
あっこのおっちゃん元気かな、トマトの…」
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「…」
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「コーラ、めっちゃすごかったやんな。あんなん漫画でしか見た事なかったわ、俺」
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相変わらず俯いたまま、返事もロクにしてくれん。
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「茜さん?」
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そう声をかけると、クルっと俺に背中を向けた。
その肩が小さく震えてて。
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「久しぶりだね、壱馬くん。元気だった?」
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「…ん」
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「私も、すっごく元気。毎日ごはんもおいしいし、お酒も、もちろん。 酔っぱらって、早くに寝ちゃってっ…。 すんごい、毎日楽しくて、全然楽しくってっ…」
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揺れる声…、鼻をすする音。
ぎゅっと後ろから抱きしめた。
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ウソばっかり…。
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「俺は楽しない。…全然おもんない。
茜さんとおるときの方が何倍もオモロイし。
適当な味付けでも、茜さんと一緒に食べたらおいしいし。
酒やって、俺が酔っぱらうまで相手できるんなんて、茜さん位やし?
…寝る時に、隣におらんのは、寂しいんやから。
羊抱いてないと、いい夢見れんの、俺。
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…正直に言うてみ?茜さんやって…」
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「私はっ…」
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「私は?」
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俺の腕をゆっくり解くと、振り返ったその瞳からポタポタ涙が落ちてって。
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「素直に言うて欲しいんやけど?俺」
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「何で上からなの?年下のクセに」
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「自信があるからやろな…俺。茜さんは、まだ絶対俺の事好きって」
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ウソ、自信なんて全然ない。
茜さんは、自分の中で決めた事は絶対曲げん。それがわかるから。 もう、俺の事なんて…て思う。
でも、まだ俺の事を思ってくれてるってそう信じたかった。
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「壱馬くん、バカみたいに食べてたから、今でもいっぱい作りすぎちゃうの!」
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「ん(笑)」
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「焼酎さ、私の好きな配合で作ってくれる人、他にいなくて…」
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「ん、(笑)こだわりあるもんな」
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「ベットが広いの!寒いの!いっぱい着たって、夜中に寒くて目が覚めるの!」
そう言って飛び込んできた俺の元。
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「ふふ(笑)、俺の役割はコタツなん?」
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ぎゅーって抱きしめると、大きく肩が揺れ始める。
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「荷物…全部まだあるよ…捨てれなくて、場所とって仕方ないのっ!」
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「ふふ(笑)。捨てられてなくて、よかったわ。
大事なもんばっかやからな」
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ゆっくり体を離して、しっかり彼女に視線を合わせた。
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「 茜さん? 外でデートしよ。スタバも並ぶ。手繋いでディズニーランドも行く」
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「そんなのっ…」
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「これ見て?」
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彼女の前、封筒から取り出した婚姻届。
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「えっ…」
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「俺は、茜さんを選んだ。俺が一生一緒に生きてく人に。
誰かに選ばれた人生を送りたいんやろ?俺が茜さんを選ぶ」
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「…」
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「もう一人にはせん。手を繋げるその距離に俺はおる、約束する。
やから、一緒に幸せになろ?」
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「結婚って事よね?…これ」
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「そうや?」
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「ちょっと待って!私、仕事復帰するの! 河村さんがっ…」
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「知っとるよ、耕平さんから聞いとる。…仕事、よかったやん。やりたい仕事なんやろ? 結婚したって続けたらええやん」
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「でも…そしたら家事とか?料理とかは?」
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「んー、適当に?」
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「そんなんでいいの?結婚だよ?」
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「じゃあ、ちゃんとしてって言うたらできる? 味見して、ちゃんと計ってご飯作れる?」
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「ん…難しいかも」
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「やろ(笑)。
二人でさ、考えよ。いっぱい話ししてさ。
色々決めてこ。それでええやん」
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彼女の手を引いて、もう一回自分の腕の中に。
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「…ケンカするかもしれん。ってか絶対するやんな。めっちゃすると思うわ、俺(笑)
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でもな…俺は、それでも茜さんがいい」
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『茜さんが好き』それだけは、何があっても変わらない俺の思い。
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「…私も、壱馬くんがいい。壱馬くんじゃなきゃヤダ!
.…壱馬くん、ごめんね?」
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「ん?」
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「好きじゃなくなったって…ウソついた。
すごく好きなのに…、私、あの時。
ウソついたままは嫌だから、謝っとく」
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「(笑)ん、ええよ。許す」
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ほんと、こういうとこも相変わらずで。
やっぱり茜さんやなってなる。
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仕事復帰するまでに、行こっ。甑島!」
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「ん?」
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「約束守るから、俺。」
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それはいつかの、彼女からのリクエスト。
プロポーズをするのに条件付きなんて、普通なら考えられんのやろうけど。
でも、それは必ず叶えてあげたかった。
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『壱馬くん…プロポーズはさ、あの海でして欲しい』
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…next
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最後は2人らしいハッピーエンドを。どんなプロポーズかな…。himawanco


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