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still…〜scene37〜
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「壱馬、みんなでスマブラしよっ!」
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「壱馬さん、ラーメン行きましょ?」
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「壱馬っ、ちょっとこれ見て!」
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事ある事に色んなとこで『壱馬』『壱馬さん』て呼ばれて。
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年末の歌番組が重なるこの時期。
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忙しいとか、もうそういうのもよくわからんくなる…。
疲れてるんはみんな一緒。  
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毎年、この辺りの時期は出番が来るまで寝てるやつが殆どやのに…。
やたらとみんなが俺に絡んでくる。
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俺を一人にしないように声をかけてくれてるって、ちゃんとわかる。痛い位にそのありがたみも感じとる。
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「壱馬さん!トイレっすか?じゃあ俺も一緒に…」
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「あほっ、トイレ位一人で行くわ」
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「(笑)ですよね、ごゆっくり」
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椅子から立ち上がった昂秀が「そうですよね」ってまたそこに座りなおしてスマホに目を落とした。
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『みんな心配の仕方が極端やねんて…』
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トイレを済ませて、みんなの元に戻る途中。
裏の搬入口のドアが開いて、そこから入ってくる冷たい風。
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『今日こんな寒いんや…』
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引き寄せられるようにその扉の外へ出ると、体にギュって力が入る位の気温と風の冷たさ。
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「『寒い寒い』って言うてるかな…。
鹿児島、ちょっとはあったかいとえーな。
いつもの、ぬくぬく靴下…持ってったかな」
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『足が冷たいの』って半分キレながらこたつに足を入れてくる茜さんの顔がふって浮かぶと、自然に涙が落ちてって。
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『会いたい…』
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「…毎日、ちゃんと食べてるから。
みんな俺がちゃんとメシ食うてるか、見張ってんやで?…ほんま、全然落ち着かんわ」
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落ちてく涙を拭って見上げた空は、小さい正方形に切り取られてて。 月も星もそこには見えない。
ただ、黒の正方形…ってだけ。
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「はよ帰ってきて…、俺寂しいと、死ぬかもしれん言うたやん」

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陸side
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「壱馬は?」
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「さっき、トイレって…『トイレ位一人で行けるわ』って言われちゃって、俺(笑)」
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「(笑)そっか…」
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壱馬の様子がおかしいのなんて、何の説明をしなくてもメンバー全員気づくレベル。
それが茜さんとの事だって事も…。
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彼女と付き合うようになった壱馬は、『歌えない』って言ってたあの頃はほんと何だった? って思う位、前みたいに…、なんなら前よりも、人に届く歌を歌うようになった。
ちょっとエラそうだけど本当にそう思う。
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『このままが続けばいい』そう思ったのももちろんで。 なのに…。
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「よくも悪くも、ほんと解りやすい」
壱馬はまさしくその典型で。
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隣で唄い始めたら、今がいい状況でないのなんて瞬間的にわかる。
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それは、反対側にいるほくちゃんもそうで。
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「陸さん?壱馬は?」
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「ん? トイレだって」
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俺とは違ったとこで、壱馬を支えてるのは間違いなくほくちゃん。
俺には見せない部分を2人は分かち合ってる。
…その関係性にちょっと嫉妬しちゃう位で。
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「そっか、じゃあ俺も行ってこよ。陸さんもどおっすか?連れション」
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「いいねぇ…行く(笑)」
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並んでトイレへと歩き出すと、目に入ったのは、壱馬が搬入口の扉の外で俯く姿。
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その背中が泣いてるように見えて、俺ら2人は足を止めた。
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「ほくちゃん、ちょっと一人にしてやろっか…今は」
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「…ですね」
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今は声をかける時じゃない。
それが俺等は解るから。
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茜さんが側にいない…。
『苦しい、辛い…』そんな壱馬を俺達は今必死に支えたいと思ってる。

でも…泣きたいなら…泣かせてやるのも思いやりなのかなって、そうも思うから。
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壱馬に背を向けて歩き出した俺の隣、ほくちゃんが「陸さん…」ってそう言うと、ふって足を止めた。
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「壱馬…大丈夫ですよね?」
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不安の色が濃いその声。
それは大丈夫じゃない壱馬を知ってるからで。
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「ほくちゃん。
今はさ…あの時とは違うじゃん?誰もさ『そっとしとこ』『近寄らないでいよ』じゃなくてさ。
ウザイ位壱馬に絡んでって。
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みんな必死だよ。ほんとバカだな …って思える位。
でもさ、バカだけどさ…俺、ランペはほんといいヤツの集まりだなぁってつくづく思うの。
ね?
…あー、ダメだ!ちょっと泣きそう、ほくちゃん(笑)」
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「(笑)やめて下さいよ?俺が泣かせたみたいじゃないですか」
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「ふふっ(笑)、ごめんごめん。
…大丈夫。壱馬は大丈夫だよ」
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俺の言葉に少し緩んだ顔を見せるほくちゃん。
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大丈夫…そう言うしかできなかったけど。
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先の事は何もわからなくて不安だけど。
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でも今はみんなで壱馬を支えようって、そこにはウソは何一つないんだ。
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茜さんのいない今は、俺等が少しでも。

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『あの時みたいな後悔はしたくない』

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…next
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いよいよツアー始まりますね。私は来月参戦です!行かれる皆様、楽しんで!!
ケガなく、メンバーみんなの笑顔がたくさん見れますように! himawanco
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