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still…〜scene36〜
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『何があった…』
その答え合わせは、彼女が鹿児島に向かったその日の夜やってきた。
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『紺野が実家から帰ったら、サプライズで復帰祝いでもしようか』 って耕平さんとそんな計画をしてた。
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その打合せも兼ねて…そんな食事の約束をしてたその日の夜。
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おばさんからは、『無事にこっちに着いたよ。ちょっとそっとしといてあげて?』って連絡があって、それっきり。
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茜さんからは『また連絡する』って一言LINEがきて、そこからは電源が切られたままやし。
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もう、誰に何を言うていいかもわからん。 かと言って俺が今すぐ鹿児島に行く事は、これからの仕事を考えたら全然リアルじゃない。どう考えても無理やった…。

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「壱馬くん?」
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約束してたお店で、「ごめんごめん、遅くなった。紺野、実家着いたって連絡あった?」っ て俺の前にストンって座った。
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「あのっ耕平さん、実は…」
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今朝からの事を、俺なりにちゃんとわかってもらえるように説明をして。
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「ん…ん」って聞いてた耕平さんが、俺の前でグラスのビールを一気に飲み干した。
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グーって大きい手が拳を握ると、震え出して。
大きく息を吸って、「はー」って吐き出した。
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「ごめん、ちょっと上手く抑えが効かない…俺」
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そう言って、ポロポロって涙がその拳に落ちてく。 こんなしっかりした大人の男の人が泣いてる。
その状況に、ふって何か冷静になる自分もおって。
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『俺のせいやろ…全部』それに違いなかった。
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「あのさ…紺野からさ、これ以上何を奪うの?
今まで必死にやってきた仕事も。
お酒飲むのも、ごはんを美味しそうに食べるのも、全部。
やっと退院してさ…実家でゆっくりって、何でそんな当り前な事をさ…。
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壱馬くん…何で?」
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言い方は優しいけど、その言葉は明らかに俺を責めてる言葉。
でも、そう言われても仕方ないって、俺もそう思う。
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それくらい、耕平さんは、茜さんの事を大事に思ってるって事を俺は知ってる。
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「すみません」
そう言って頭を下げるしか出来んかった。
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「そうじゃないんだよ…ごめん。違うんだ…。
俺、何言ってんだって話しだよね。
壱馬くんを責めるような事を言うのは違うってわかるのに、ごめん」
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そう言って、瓶に残ってたビールを全部グラスに注いで一気に飲み干した。
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ただ、二人で少しの酒を飲んで、溜息と、ここからどうなるのかの不安に苛まれて終わった食事。
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地下のお店から階段を上がって、タクシーをって思ったとこで、俺らの前にすって立った人。
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「川村壱馬さん、ですよね」
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何なん…。軽く交わして通り過ぎようとした瞬間、耳元で囁かれた言葉。
一瞬で沸点を越えてった。
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『あんな額じゃ、足りないんですよ』
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コイツやって、すぐにわかるその言葉。
俺と彼女の事を…。
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「お前かっ!」
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もう周りの事も、先の事も何も考えられんかった。 目の前にいるコイツのせいで、俺の周りの人達がみんなって…。
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「両親思いの素敵な女性ですね、ご家族の元に僕が伺ったって言ったら、顔色が一瞬で変わって…」
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茜さんが実家に帰らなかった理由はこれ…。
自分のせいで両親を巻き込むのを心配したから。
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「っざけんなっ!」
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もうどうなったって…こいつだけは。
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「壱馬くん!」 俺とそいつの間に立ったのは耕平さんで。 俺の腕をぎゅって握った。
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「紺野は、それは望まない」 そう首を振った。
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『茜さんは望まない』、その言葉にぎゅーって閉じた瞼。
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『壱馬くん』って俺の名前を呼んで笑う彼女の顔が、すって思い浮かんで。
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「はい…大丈夫です」
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力を入れてた手をゆっくり解いて、耕平さんを見上げると『それでいいよ』ってそう微笑んでくれる。
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俺に向いてた耕平さんの体がクルっと回ると、そいつに向かってって、両手でぐっと詰め寄った。
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「殴ったりはしません。脅したりもしませんよ。 それは、僕にはプライドがあるんで。
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あなたも、もっと自分の仕事にプライドを持つべきじゃないですか? あなたの書くそれで、誰かの一生が、左右される。
それにもうちょっとちゃんと向き合うべきだと。
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ひょっとしたら、命を絶つ人がでるかもしれない。それ位の責任を追うべきだって。…違いますか?」
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ほんと数センチの距離。
まっすぐに見据えたその瞳。
一瞬外して、もっかいグって視線を合わせた。
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「二度と、二人に近づくな」
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「いこっ、壱馬くん」 振り返ると、俺をそう呼んで、大きくて骨ばった掌が俺の肩に乗って、歩き出す。
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「やばっ(笑)、今の俺、相当カッコよかったよね?」
そう少年みたいに笑った。
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…next
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「耕平さーん!!」ってなってくれたら嬉しい(笑)himawanco


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