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still…〜scene33〜
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やっと体調が落ち着いて、退院したのは10日後。
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退院した翌日。
明日から実家に帰ろうかって日。
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お母さんに『勤続10年で、長期のお休みできたから、ちょっとそっちに帰るよ』そう言ってあった。
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『クビになった』なんてそんな事言えるわけもなくて。
何も知らない両親は、普通に喜んでくれて。
「おみやげ、いっぱい買って帰ってきてよ」って、そんなリクエストもされてた。
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大丈夫。
ちょっとゆっくりして、また仕事探して。
その先のいつかに『結婚』もあるかも…あればいいなって。
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今すぐを期待するわけじゃない。
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でも、壱馬くんとの『いつか』を望んでた。
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実家に帰る準備をして、デパートへ久々に買い物に。
「お母さんのお土産は羊羹と…プリン。
お父さんは…お酒かな。こないだ帰った時、何持ってったっけ?あっ…明日の新幹線、予約なくても乗れるかな」
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久々に実家に帰る事は、素直に楽しみだった。
おいしいご飯を食べて、お母さんとしょうもない話しをして、温泉でも行って…。
そんな親子の時間を楽しみにしてたから。
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両手いっぱいのお土産を持ってアパートに帰ってる途中。
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「買いすぎちゃったかな…」
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壱馬くんにも紙袋をいっぱいぶら下げた写真を送っておいた。
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今回の事があって、『もうちょっと連絡はこまめにして欲しい。スマホの電源切るんは、ほんまやめて』そう言われてたし。
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18時過ぎ。
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冬のその時間はもう辺りはしっかり暗くて。
街灯の灯りがぼんやりと灯る。
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「紺野さん?お仕事辞められたんですか?」
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一度しか聞いてないけど、その声は私にとっては、忘れらない声で。
背筋が一瞬で凍る声。 振り返ると、あの時の人…。
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「川村さんとのことが原因ですか?」
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「関係ないです」
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平静を取り繕うのに必死だった。
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「ご実家、素敵なとこですね、自然がいっぱいで」
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「えっ…」
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「ご両親、お若いですね。お母様は、あなたによく似てらっしゃって、おキレイで。
お父様は、地元でも有名な会社にお勤めだって。
お話伺おうかなと思ったんですけど、とりあえず、今回は見送りました。
周りにお友達や、会社の方もいらっしゃったので。一応、 私も、弁えました。
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『娘さんが、芸能人の方とお付き合いされてますよね?』って、あんな田舎で広まったら大変だろうって思って」
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息ができなかった…。喉の奥がギュってなる。
私だけじゃない、私だけの問題じゃなくなってる。
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『私の周りを知ってる』
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怖くて、震えが止まらなくて。
バックをギューって握って「すみません」ってその人の隣を早足で、通り過ぎた。
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震える手で開けたドア。 玄関に置かれたスーツケースが目に入る。
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「茜が帰ってくるの、楽しみだな。明日の晩御飯は、すき焼きにするわね」 今朝のお母さんのその弾んだ声が耳に残る。
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「お父さんお母さん、ごめんね…」
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このまま実家に帰ったら、きっと二人を巻き込む事になる。
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『急な仕事で帰れなくなった』それだけ送ったLINE。
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どうしょ…。
その時、スーツケースにつけたままにしてた『KOJ』タグが目に入った。
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時間なんて気にできなくて、スマホをぎゅって握って助けを求めた。
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「おばちゃん…、今から行っていい?」
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…next
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『実家に帰る』
そう出来なかった、茜ちゃん。
あー、こんな展開にしたん誰よ… 。

今回しんどいゾーン長めです。 himawanco