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still…〜scene27〜
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『今回は…大丈夫だから』
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日本からの電話の第一声はそれやった。
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チーフマネージャーからのそれは、この写真が公に出る事はないって、そういう事だと理解した。
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「すみません、ご迷惑おかけしました。あのっ…でもっ」 
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「壱馬?今回は…だからな。『今回は』」
それだけ言われて切れた電話。
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『今回は』それは『次はない』そういう意味。
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「壱馬?どしたの?メシ、みんなで行こうって」
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「あっ、俺ちょっと今日はいいです」
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陸さんが、「ん?」って顔をしてて。
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「じゃあ、陸さんとサシで行きますか?(笑)」 
そう笑うと俺の肩をぽんって叩いた。
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「えっ…」
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「腹は減ってるでしょ?」
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きっと、俺の顔を見て一瞬で、『何かあった』それを察してくれたんやと思う。
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「…減ってます」
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「ふふ(笑)、素直でよろしい。まぁたまにはな、壱馬とサシってのもいいじゃんな」
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メンバー達とは別行動。二人で入った現地のお店。
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 「よくわかんないから、適当に頼むか」って身振り手振りでオーダーをすると、すぐにテーブルいっぱに並べられた料理。
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「うまっ、壱馬も食べてみ?」
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「…ん」
勧められるまま、一口。
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「うまっ」
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「だろ?あっ…野菜、ちゃんと食べろよ(笑)」
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「野菜?あっ…ん…」
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東南アジア独特の味付け、ちょっと恐る恐るではあったけど、まぁ何食べても旨かった。 
そもそも飛行機の中ずっと寝てて何も食べてなかったし。
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「で?何言われたの? 電話」
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「っ…」
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やっぱり、気づかれてた。 
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今、俺が置かれてる状況をゆっくり話しした。
 上手く説明できてるかはビミョーで。
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でも、それを向かいの席で手を止めて、真剣に聞いてくれる。
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「…壱馬の代わりはいないんだよ」
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「えっ…」
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「ランペにも、でも…茜さんにもそうだよね。
茜さんの代わりも、壱馬にはいないでしょ?」
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『別れた方がいい』そう言われるって思ってた。
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グループのこれからを考えたら、もしこれが公になれば、いいイメージに繋がるとは絶対に思えない。
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そんなの誰が考えたってそう思うから。
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でも…
『茜さんの代わり』そんなん考えた事もない。
彼女は、それ位俺には大切な人。
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「俺さ…思うの。壱馬さ、歌上手くなったなぁって。 いや、昔から上手なのは知ってるんだけどね、もちろん(笑)
そういう意味じゃなくて。
いい歌、唄うようになったなぁって。何か上から言ってるみたいだけど、本当に最近そう思う。 
ちょっと油断したら、壱馬の歌聞きながら泣いちゃいそうだもん、俺(笑)」
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嬉しかった。…ほんまに嬉しかった。
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一番近くで、俺の歌をきいてくれてるのは、陸さんと北人やから。
 やからその言葉は、胸にぐっと来るものがある。
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「彼女の存在が大きいのかなぁって、そう思うからさ」
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「…そうですね多分。いや、間違いないです」
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「だよね…。じゃあさ、一緒に考えよっか。
俺もそうだし。ほら、他に考えてくれるメンツがさ、他のグループの何倍もいるよ?うち。

頼りないやつも多いかもだけど(笑)
でもっ…みんなお前の為なら、必死に考えてくれるから」
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「っ…」
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「ランペも、茜さんも守る方法。…壱馬の歌を守る方法…な?」
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俺の目を見て、優しく笑う。
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「みんないるから…大丈夫。
『どっちかを諦める』ってそうじゃない。
 『どっちも手に入れる』それが、壱馬らしいって俺は思う」
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そう言っていつもみたいに「ニカッ」て笑うその顔に、正直安心した。
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『これから先どうしよ…』『何から、どうしたらいいん?』
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もうそれで頭はいっぱいで。 
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どっちかを手放すなんて出来っこないのに、もうそうするしかないかもしれんって、その考えに囚われて。
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『ランペも、茜さんも守る方法』
そうやん。
それを考えるのが、俺がやらないかん事やんか。
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「よし、合流するか!みんな待ってるって」
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陸さんが俺に向けたスマホには『待ってまーす』ってたっくんが撮った写真。
みんなでグラスを持ち上げてた。
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「ほら行くよ。壱馬!」
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陸さんの大きな手に肩を抱かれて、タイ語が飛び交う狭い通りを歩き出した。
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「あっ…目玉焼き…」
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「ん?」
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見上げたそこには、茜さんに『好き』を伝えたあの日みたいな月。
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俺の気持ちは、あの日から何も変わらんから。
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絶対、どっちも失くさへん。
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…next
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りっくんの『ニカッ』て笑う顔、素敵やんね。 himawanco