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still…〜scene20〜 
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9月6日。
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彼女の誕生日。
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この日を迎える、一か月位前。
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「誕生日、何したい?どっかでメシ食う? まるっと一日は無理かもしれんけど、時間の調整して、どっか出かけたり…」
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 「いい…行かない」 
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「何で?年に一回やで?何か特別…」
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付き合い始めて、初めての誕生日。 
何か特別な事をって思うんは、普通やろ?
茜さんやってそれを望んでるって俺は思ってたから。
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「いいのっ、どこも行かなくていい。ここで一緒に晩御飯食べて、お酒飲んで、それでいい」
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どんだけ『ここは?』『じゃあ、あそこは?』って言うても頑なで。
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「ちゃうかったら、ちゃうって言うてな?
俺の仕事の事気にしとるから?」
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もう、どう考えたってそれ以外なくて。 
そう言うと、一瞬動きが止まって小さく口を開いた。
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「私はさ…ビビリなんだよ」
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いつもみたいな、明るいトーンじゃないその声。 
どうしたんやろって気になって、洗濯モノを畳んでるその前に回り込んだ。
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「茜さん?」
そう呼んだのに、視線は手元に落としたままで。
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「…リスクがーミリでもあるような事はしたくない」
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「えっ…」
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いつもちょっと冗談を混ぜたり、茶化したり、そんな茜さんの真っすぐなその言葉に、 そこからどんな言葉を彼女にかけたらいいのかわからんかった。
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茜side
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「芸能人と一般人なんて絶対うまくいくわけないじゃん。わかってて何で付き合ったんだろな、この女の人」
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ランチの時間、スマホを見ながら向かいの席に座る後輩2人がそんな話しをしてて。
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話しの内容は、ネットにあがってる若くて人気のある俳優さんと一般人の女の人の熱愛報道。
報道があった後、破局したって、そんな感じの話題。
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「コイツもさ、世間受けはそりゃ 『相手が一般人』って、いいかもだけどさ、いつか気づくよね?
『自分の周りにいる女の子の方が絶対かわいい』って。だからちょうどよかったんじゃない?」 
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「だよなぁ。この女の人もわかってるだろうに、それ位。
ってか、わかってなかったら相当頭の中、花咲いてるよな(笑)」
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言い方はまぁひどいけど。でも私も正直そう思う。
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 そして、それは私にも言える事だなって、改めて思いしらされる。
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ずっと、私の中の気持ちは行ったり来たり。
『大丈夫だよ』と『ほんと、大丈夫?』の間をうろうろしてる。 
自信なんてもちろんないし、余裕なんてあるわけない。 




いつ言われるんだろうかって…正直怖い。
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《ごめん。茜はさ…何か違うんだ。お前は違った》
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今でも、頭の中ひっかかって取れないその言葉。
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そんな中近づいてきた私の誕生日。
 もうお祝いしてもらって嬉しい年齢でもないし、何なら壱馬くんとまた年の差が広がるなって、そっちの方が気になって。
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でも、そんな事おかまいなしに 「どこ行く? 何食べたい?」って無邪気にそう私に聞いてくる彼のそのテンションに、自分との温度差を感じて。
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周りの目を気にしてるのは、私だけ? もし、私と一緒にいるとこを誰かに…とかは、考えないの?
 いつ別れてもいいとかやっぱりそんな感じなの?
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そう思ったら、もうそうとしか思えなくて。 
でもまたケンカになるのもイヤだし。
精一杯がんばって、言葉を選んだ。
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『リスクがーミリもある事はしたくない』
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だって、そうだから。
 私が一番恐れてるのは『一緒に居られなくなること』これだから。
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そのセリフに瞬きを繰り返す壱馬くん。
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『あーまたやっちゃったかも』
 せっかくお祝いをしてくれようって言ってくれてるのに、 空気読めない事言っちゃったかな。
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「リスクって何?」
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「…えっ」
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「やから、何?『リスク』って」
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明らかにいつもよりもまだワントーン抑えた声。
 怒ったかな…。
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「誰かに一緒にいるとこ…とか、周りの目とか…、そういうのさ…」
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「悪い事してる訳ちゃうやんな?俺ら」
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「…ん、そうだけど」
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「彼女の誕生日をお祝いしたいって、そんなあかん事?普通やないん?」
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「もうちょっと自覚持った方がいいよ、壱馬くん。壱馬くんの『普通』は私とは違う。
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…正しい事が『正解』 そうじゃない事もある」
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「どういう意味?それ…」
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そう彼に聞かれて、もう、言葉を選ぶ事はできなくなった…。気持ちが抑えきれない。
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…next
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