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「俺も何か作ってみよかな」
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最初はそんな軽いノリやった。
バレンタインのガトーショコラのお返し…。
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どうせ作るなら彼女が好きなモノを。
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『何やろ…カレー?餃子? プリン?チーズケーキ…』
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はっ!
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「クリームコロッケや!!」
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こないだ一緒に見てたテレビ、『クリームコロッケ食べたいなぁ、作るの難しいもん、あんなの絶対出来る気しない』
そう言うてた。
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「やったろうやないか!」
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この時の俺はクリームコロッケの難易度なんて知るわけもなくて。 レシピを見て、とりあえず材料を買って自宅に帰った。
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「一旦練習しとこか」って。
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「バターを溶かして、玉ねぎ炒めて…牛乳を三回にわけて?」
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一気に入れたらあかんの?なんで?
全体がまとまってきたら?まとまらんやろ、こんなん。
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バットに移して、冷蔵庫で60分…んで、俵型に成形…。
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あかん、めまいしそう。 てか、食べるまでにどんだけかかんの?これ。
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とりあえずの一回目は、なんか粘土みたいな仕上がりで…とてもじゃないけど、食べ物とは言えなくて。
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2回目は、成形までなんとかいけたのに、油の中に入れたら爆発。
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「うわぁ!」 キッチンで叫んだ俺。
空洞のパン粉の塊ができあがった。
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こんな難しいん?クリームコロッケ。
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半ば諦め気味で、翌日の仕事に行って、昨日のその大惨事の話しをすると、隣にいた北人が見たこともない位笑う。
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「笑うなや、ほんま。あんなん無理やて…」
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「でもさ?壱馬が逆にさ、クリームコロッケがすごく上手に作れたら、彼女傷つくんじゃない?
『私にはできないのに…』ってなんない?
いじけるぞー、多分(笑)
あの子そういう子だろ?」
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「あっ…」
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そうやった事を今になって思い出す。
『料理が得意じゃない…』それを本人がコンプレック スに感じてる。
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『あかんな、それは』
ほんまや、気づいてよかった。危なかった…。
北人に感謝でしかない。
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ホワイトデー当日。 
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お返しに選んだのは、彼女が好きなブランドの新作のリップ。 
春色が欲しいな、みたいな話しをしてたし。
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「はい、ホワイトデー」
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小さな紙袋を手渡すと、「ありがと」って嬉しそうに受け取ってくれて。
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『よかった、これがやっぱり正解やったわ』って、
一安心。
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「で?作ってくれるんでしょ?」
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「はっ?」
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何?いったい何の事?俺の頭の中は「?」でいっぱい。
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「クリームコロッケ」
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「はっ?何で?」
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「ほくちゃんから、連絡あった。『壱馬が必死に練習してるよ』って。
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「あいつ…」
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背伸びをした彼女にギュッて抱きつかれて。
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「嬉しいでしかないけど?そういうの。
壱馬のその気持ち。一生忘れないよ、私も」
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ふふって、ちょっと恥ずかしそうに俯く彼女。
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『一生』って言葉の破壊力の大きさ、半端ない。
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「じゃあ、一緒に作ろうよ、クリームコロッケ!」
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「はっ?マジ?めっちゃムズイで?食べるん3時間後とかやで?」
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「えっ?そうなの? んー、でも作ろう。今日は壱馬と料理したい気分」
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夜中までかかって、二人でキャーキャー言いながら作ったクリームコロッケ。
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出来上がったそれは、思ってたんとは違うけど、隣にいる彼女が、ずっと笑ってて…。
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ホワイトデーで、お返しをせないかんのは俺やのに…。
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その『笑顔』に、これ以上ない幸せを俺はもらった。
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…ん、絶対一生忘れへん。
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Whiteday story
…fin
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バレンタインの時のショートstory のアンサー編でした。クリームコロッケほど、作るの難しいものはないと思う…(笑)インスタライブの壱馬が、もう壱馬らしくて、かわいいでしかなかった🤭  himawanco

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