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still…〜scene16〜
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「あーぁ」
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風呂から出たら、何か静かやなって。 
リビングのドアを開けたら、缶ビールが二本テーブルの上に置かれたまま、その隣でベッドによりかかって眠ってる。
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「もうちょいやったのになぁ、ビール。楽しみにしてたのになぁ、茜さん(笑)」
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彼女を抱き上げてベットにそっと降ろした。
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むにゃむにゃ動くその口は、ビールを飲んでるんか満足そうに笑ってて。
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そっと触れた唇。
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「俺もお預けにしとこ。一緒に飲みたいしな」
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冷蔵庫にちゃんとしまって、彼女をそっと抱きしめながら瞼を閉じた。

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茜side
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翌日の朝。
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「ちゃんと話しよ、な?」
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そう先に言ったのは、壱馬くんで。

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「ん、そうだね」
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まだ朝ごはんも食べる前。少し寝ぼけてぼんやりする位の時間。
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でも多分思ってる事は2人同じで。
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『ちゃんと話はしてから、仲直りしたい』
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ベットの上で二人向かい合ってペタっと座って。
寝ぐせのついた髪をワシャって握った壱馬くん。
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私がよく知ってる『壱馬くん』 な壱馬くんが目の前に座ってる。
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「俺、言い過ぎたん、ごめんなさい。茜さんの仕事がどうとかじゃなくて。
ただ、単純にイヤやったん。『触んな!』ってなった」
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「ん…。私も、『ヘラヘラしてる』はイヤだった。
でも心配してわざわざ来てくれたのに、 ごめんなさい」
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「ん」
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「ねぇ、壱馬くん」
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《思った事言ってごらん》…うん、今言おう。


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「ん?」
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「私ね…何でなんだろ?って思ってる。壱馬くんは何で私なんだろ?って」
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「…俺も」
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「へっ?私はさ、普通のその辺にいる人だよ?壱馬くんは違うじゃん」
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「普通にその辺にいる茜さんはさ…、仕事帰りにコンビニ行って。
休みの日には、新宿で買い物して、スタバ行って…。普通の彼氏と付き合えばそうするんやろ?
…俺はそれはできんから」
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「そんなのして欲しいって、私言った?」
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「じゃあ、俺が周りにおる誰かの事が、かわいいとか、気になるとか言うた?」
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「…言わない」
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「勝手に不安になってるんやないん?」
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「だって…」
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「だって?」
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「言いたい事あったら、全部言うて? 俺も言う」
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「私、『好き』ってなったら、うまく加減とかそんなのできないの! 駆け引きとかそんなのできないし」
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「知っとるよ…そんなん」
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「私にとってはさ、誰かを 『好き』って気持ちはさ、諸刃の剣なの。 一瞬で幸せになれて、一瞬でこの世の終わりになる」
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「終わんなって(笑)」
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「それ位真剣にって言ってるの!重いって思うなら、さっさと切ってくれていい!」
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「重い?はっ?ないわ、それ…。
茜さんさ?俺、取材の時、いつも言うてるん、知らん?」
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「そういうの見ないもん、遠く感じるから。
それに、過去は知らない。
おっかけようと思った事もない」
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「ふふっ(笑)正直な…そういうとこ」
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「だって…」
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「俺は…
『結婚を考える人じゃなきゃ、付き合おうとはいいません』
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そのままの意味やで?取材やからとか、パブリックイメージを気にしてとかやない。 
これが俺のそのままの気持ちやから。
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『結婚したい』って思う人とじゃなかったら、そもそも付き合おうとかならん」
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彼の口から出る『結婚』てワードが、まだ自分の中でリアルじゃ全然なくて。
どう答えたらいいのか、わからなかった。
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「今すぐにって形にはできん。それはほんまごめんって思う。 でも、中途半端な気持ちじゃないんよ、それはほんまやから」
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「ん……」
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彼の言葉を疑うなんてない。
それはわかる。
でも『結婚』て…。

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「結婚…するんやで?茜さんを奥さんにしたいってそう思ったから、俺は『付き合って欲しい』ってそういうたん。忘れんで?な」
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ぎゅーって抱きしめられたその体は、ーミリの隙間もなくて。
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「勝手に不安になるとか…もぉ、頼むわ。おばさんに連絡せんかったら、今回マジで終わるとこやった」
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「おばちゃんに笑われちゃったよ…、2人して同じ内容で時間差で電話してくるって…相変わらずねって」
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「ふふっ(笑)似てるって言われんかった?」
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「ん、言われた」
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『よく似てるから』
だからこそ、こうやって、距離を少しずつ縮めていくのが、私達らしいってそう思う。
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「壱馬くん1個お願い、あるの」
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「ん?」
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「プロポーズはさ、最初に出逢ったあの海でして?あそこで聞きたい」
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「ふふっ(笑)また?
そういうのはさ、リクエスト制じゃないと思うんやけどな」
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「第一印象よくなかったから、上塗りしたいの」
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「それ?(笑)」
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ウソ…。
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『出逢った場所で永遠を誓う』
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そんなロマンチックなプロポーズに憧れがあったから。
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…この時は、恥ずかしくて言えなかっただけなんだよ。

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…next
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明日はホワイトデーのショートを。 himawanco

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