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still…〜scene15〜
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『ごめん、言い過ぎた』
 何度もそう打ち込んでは、最後の送信が押せない。
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『心配やった』俺の気持ちはそれが全てで。
 でも言い方はよくなかった。
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やから、弁解っていうか、ちゃんと落ち着いて話しをしたいって思うのに…。
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1週間一緒に過ごしたとはいえ、まだ付き合い始めたばっかの俺ら。 
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お互いわからん事やっていっぱいやし。
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「はぁ…」
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大きく出た溜息に、周りのメンバーも俺の不穏な動向を伺ってる感じ。
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「壱馬?どしたの?」

『何がどうしたのか、聞いて来て下さいよ、陸さん』 
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こそこそしてる年下組から背中を押された陸さんが、俺の隣にゆっくり座 った。
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「仲直り…したくて」

ほんとそれでしかなくて。
色々弁明したい事はあるけど、とりあえずの目標はそれ。
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「彼女?…ケンカしたの?」
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「まぁまぁ派手に…ブチギレられました」
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「ん、そっか…」

そう二人で俯いた時、鏡の前で鳴り出したスマホ。 浮かぶ名前に、この電話を取るかどうか、今更悩む。
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「切れちゃう!ほらっ、壱馬っ!もー、あっ、もしもしっ?」
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まさかの、俺の電話に出た陸さん。
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『はっ?』ってなったとこで、満面の笑みでスマホは俺に真っ直ぐに差し出された。
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「『茜です』だって」
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そりゃそうやろ。ディスプレイに浮かぶ名前は『紺野茜』 やったし。
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「もしもし。このまま切らんで」
周りの視線に耐えかねて、控室の外に出た。
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「もしもし?ごめん。外出てきた。」
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「ん…」
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電話の向こうに聞こえる声は、元気がないのがよくわかる…そんな声。
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「あんな?茜さん…」 
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「待って! 先言う! 言いたい事先言わせて!」
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 「えっ…ん、じゃあ」
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そう言うと、小さく息を吸う音がして。
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「心配して来てくれたのに、ごめんなさい。 
でもっ、ヘラヘラなんかしてないっ!あのジジイすごく嫌だった!怖かった!
ぶっ飛ばして帰ろうって思ったの。
でもっ、大事な仕事だったから。
私にとっても、河村さんにとっても、大事だったの!」
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一気にばーって、そう言い終わると、急に静かになって。
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「ごめんね、壱馬くん」て小さく聞こえた。
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「ん…、耕平さんからあの後、連絡あった。
『やっぱり今回は全般的に自分が悪かった』って。
でも耕平さんだけが悪いんちゃう。
茜さん、ごめんな?あんな風に言うつもりやなかったのに、俺…。ごめん」
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次の日、耕平さんからも『どうなった?』って連絡があった。 

あった事をそのまま伝えると『本当にごめん』って謝った後 『ここからどうするかが、大事だよ』って。
なのに、俺は何も出来ずにいたんやけど。
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「壱馬くん…」
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「ん?」
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「今日…会いたい」
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「ふふっ(笑)ん、えーよ。俺も会いたい」
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会いたい時に『会える?』じゃなくて、『会いたい』ってそう言うてくれるのが、彼女の好きなとこ。
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「あっ、でもな。今日遅くなるんよ。それでも…」
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「じゃあ、寝て待ってる」
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「(笑)。普通そういう時は『寝ないで待ってる』やないん?」
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「やだ、睡眠時間は大事だもん。
でも会いたいから、絶対起こして!インターフォン連打して?ね?絶対だよ!」
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自分勝手なんか、自分の気持ちに正直なんか。
もうこの辺りで『仲直りできたな』って実感できる空気感。
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でも、『会いたい』から。 
もう仲直りできてたとしても…。 
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今日は『会いたい』
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.「寝てるわな…」
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結局言ってた通りに遅くなって。 
 スマホに灯りをともすと26時。
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 一回鳴らして、あかんかったらやっぱりやめとこう。
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そう思って、ゆっくり押したインターフォン。
バタバタって、走る音と共に「おかえりっ」ってドアが開いた。 
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えっ?それ寝起き?ちゃうやんな…。
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「あっ、ん、…ただいま。えっ?寝て…た?」 
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「んーん、起きて待ってた」 
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「はっ?寝て待ってるって」
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 「『起きて待ってる』って言ったら、早く帰りたくて適当に仕事するんじゃないかって、壱馬くんが」
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 「はっ?」 
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「ウソ(笑)何か、ドキドキして、眠れなかった」
そう言って、笑うとギュッて抱きつかれて。
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「ごめんね…壱馬くん」 肩越しに聞こえるその声にキュってなる。
そっと彼女の背中に回した手。
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「俺も、ごめんなさい」

ん、ちゃんと言えた。
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そこまで言い終えた瞬間。
「はい!じゃあ、仲直り完了。
どうする?ビール飲んじゃう?」って嬉しそう。
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「あんさ…雰囲気とかそういうのさ…」
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そこまで言うて、そういうとこから彼女は遠いタイプやって思い出す。
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「とりあえず、俺風呂入ってきてええ?」
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「ん、じゃあビールの準備しとくね」
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フンフンって弾んだその背中。
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ケンカしてた事とか、何やったんやろ?みたいな。
引きずるとか、絶対ない。
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彼女のこんなとこがめっちゃ好き。
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…next
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