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still…〜scene11〜 
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「何で繋がらんの?」
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21時過ぎ。
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新商品のプロモーションも終わって、『一段落ついたから』ってそう言うてのに。 
『残業しすぎて、上からの圧がヤバイから、早く帰る』って言うてたのに。
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俺も早く仕事が終われたから、『今日は一緒に』…そう思ってたその日。
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付き合うっていうたって、お互い仕事もあるし…。
なかなか『恋人らしい』事なんてできてない。それがリアル。
やから、時間が合うなら、少しでも…。
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20時半位から、ずっと鳴らしてるスマホ。 
繋がらんってなったら、余計に心配なんと、意地になってる俺。
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「壱馬?それ位にしたら?もうストーカーだよ?そんな電話したら。スマホ見て、怖くて電話できないんじゃん?」
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タクシーの中、隣に乗る北人にそう言われて、一瞬我に返って。
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『あっ、ほんまや』って。
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「大好きなんだね…、茜さんの事」
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周りにそう言われて、自分の気持ちにまた気づかされる。
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新曲のレコーディングのタイミングで、二人に話した。俺と茜さんの事。
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「えっ?それってさ、もう運命でしかなくない?
離島で出会って?東京で再会して?こんなたくさんの人がいる中で、出会える確率とかさ?ほんと、やばいー」
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「だよね?北ちゃん、そうだよねっ。運命だよねっ。えー、何それ。ドラマじゃん!月9だよ、それ!!いーなー、そういうの俺、好き!」
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「俺も!キュンキュンすんじゃん!」
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二人のこの反応。
 当事者の俺よりも確実にテンション高くて。
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「で?でっ? 告白したんだ?」って嬉しそうに、 おんなじ顔して、俺の方を見てた。
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「ん、まぁ…そう」
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「「え一!!」」 
何故か俺の目の前で抱き合う陸さんと、北人。
 なんで、そうなんの?
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「今度さ、ゆっくり紹介してよ、ね?」って、そんな約束までさせられた。
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スマホを握る俺の隣で、ふふってちょっと笑うと、呆れたような顔をする北人。
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「壱馬は、ほんと『好きなもの』に対する愛情の大きさがさ、エグイよね…。彼女、重たいとか言わない?」
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「特に言われた事はないけど…。俺、重たい?」
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「だいぶ。もう、怨霊が乗ってる感じ」
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そう言って笑う北人。
ちょうど信号で止まった車。
北人の奥に見える通りの左の方…
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「あっ…」
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茜さんやった。
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「止めて下さいっ!」
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もう、見つけた瞬間、何も考えずにそう言うてて。

 無理やり路肩に止めてもらった車。 
扉を開けようとして「壱馬!」って北人に握られた腕。
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人通りの多い場所。しかも週末。 
茜さんの周りにもたくさんの人がいて。
こんなとこ出てったら…。
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やっとそこまで思考が追いついて。
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「ごめん…、大丈夫。ごめんな」
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扉からは手を離したものの、人込みの中、彼女を見失わないように目を凝らすのに必死で。
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スーツを来てるおっさん達に、にこにこしながら何度も頭を下げてる。
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 やっと、頭をあげたなって思ったら、向かいにおったそのおっさんが、彼女の腰に手を回して自分の方へと引き寄せた。
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「はぁ?!」
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もう、その光景に、一瞬で振り切ったメーター。
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ドアを開けようとした瞬間、目に入った茜さんとそのおっさんの間に入った大柄な男の人。
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「耕平さん…」
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自分の後ろに茜さんを隠すように移動させて、タクシーを止めると、そのおっさんに乗るように笑顔で促して。
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走り去ったタクシーを見送る2人。
その次のタクシーを止めると、二人で乗り込んだ。
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「大丈夫です、すみませんでした。行って下さい」
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静かに走り出した車内。
ぐるぐるするさっきの光景。
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マンションの前で降ろしてもらって、自宅に帰るはずやったのに、どうしてもモヤモヤが消えてかん。
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エレベーターの 『閉』 ボタンを押したのに、次の瞬間 『開』を連打。
エントランスを飛び出して、通りで捕まえたタクシー。
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彼女のアパートの前の近くまで来て、点いてる部屋の明かりを確認して、ちょっと冷静になって…。
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このまま急にアポなしで押しかけたら、茜さんどう思うんかな…。
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今、顔合わせたら『今日のあれ何? 誰あのおっさん』
俺多分、それ言うてまうよな。
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絶対ケンカになるってわかる。
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そう思ったら、このまま帰った方がやっぱり…。
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 街灯から少し外れたとこで、行くのか帰るのか、情けないけど、その判断に迷った。
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『心配なん…それだけなんやけどな…』

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…next
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