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still…〜scene9〜
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『会いたかったん、他に理由なんてない』
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真っ直ぐ、彼女がいるとこまで。
もう、何の迷いもない。
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右手で抱き寄せて、ぎゅっと抱きしめた背中。
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ずっと、こうしたかった…。 
こうやって抱きしめると、やっぱり確信する自分の気持ち。
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もう間違いないんやって…。
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「俺さ…茜さん」
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「…」
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「一目惚れではなかったん。茜さんの事。
『この人何なん?』ってそんな第一印象やったから 」
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「…ん(笑)知ってる。嫌悪感アリアリだったもんね」
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「でもな?気づいた時には、もう好きやった」
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「っ…」
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「『あの時のあれが!』とかじゃない。…でも、好きになった。そんな曖昧なんではあかんかな?…こんな、はっきりせんのんでは、あかん?」
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「何もないよ?…あれからの時間で、私はそんなに変わんない。『変わった』って自信が欲しくてがんばってるけどっ… 相変わらず『そこそこ』なとこにいる」
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「そんな簡単に結果なんて手に入らん。それ位俺やってわかる」
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「でもっ、壱馬くんはさっ…」
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「俺は、元の場所に戻っただけ。
戻ったっていうか、戻って来させてもらった。
仲間が…メンバーがな、俺の居場所をちゃんと守ってくれてた。『おかえり』って…」
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「…ん」
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「でも、そこに戻ろうって思えたんは、茜さんとの時間あったから。あれがなかったら、戻れてたどうかは、わからん」
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「…ん。私も。あの1週間があったから、『変わったんだ』って。それを形にしたくて今頑張ってる。
…壱馬くんに、それを見てもらいたかった」
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そっと離された体。
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「まだ途中なの、私…」
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「じゃあ、一番近くで、俺はそれを見届ける。
その資格があるんが、俺以外なんてナイやろ?」
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「…ん」
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「他の誰かになんて、絶対譲らん」
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「相変わらずだよね、壱馬くん(笑)負けず嫌いで自分が一番なとこ」
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「茜さんもやろ?『形にしたい』って、無理して、倒れたん誰よ」
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「あっ…確かに(笑)」
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『ヤバっ』て顔して笑うその感じ。好きなんよ、それ…。
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ゆっくり視線を合わせて…もう1回。ちゃんと伝えたい。
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「一番近くにいても、いいですか?」
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ピンて張り詰めた空気。
彼女の表情が、ゆっくり和らいでいく。
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「…はい。
ん、いーよっ!
私も『あの時のあれが』じゃないけど…。
でも私も気づいた時には、壱馬くんの事好きだった。だから、それでいい!曖昧な理由でも文句言わない!」
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茜さんらしい返事で、なんか笑ってしまう。
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「付き合うって事よね、私と」
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「えっ?ん…そう言うてるけど?俺」
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「そっか…ん…、えっ?壱馬くんの彼女?私。ウソ…何かドッキリとかじゃないよね?これ」
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急に辺りを見まわして。
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「いや、茜さん一般人やん。」
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「そっか、だよね(笑)」
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一瞬真顔になった顔が、またクシャって緩んで。 
愛しさが溢れるってたぶんこういう時に使う言葉。
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右手を引き寄せて、背中に腕を回すと、俺の背中に回った茜さんの腕にぎゅーって力が入る。
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「壱馬くん…好きだよ。ぎゅーってしたい。すごくしたい!」
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『自分にウソがない』
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耕平さんの言葉通りやなって。
思うままに言葉にして、そう動く。 

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「あかん、あかん。俺、折れてまう(笑)」
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「えっ?痛かった?ごめんっ!」
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そう俺を見上げる慌てた瞳。 
その少し上、おでこにそっとキスをした。
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「ねぇ、壱馬くん?」
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「ん?」
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「壱馬君はさ、関西人だよね?」
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「えっ?…ん、まあ」
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いきなり何を言い出すん…。
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「じゃあ、言って?」
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「ん?…あっ…」
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思い出した、あの洗濯機の前での会話。
『告白、何てされたい?』ってやつ。
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「普通、そういうのは、『言って』って言わんのやで?(笑)」
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「えっ?そうなの?リクエストは受け付けないの?」
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「(笑) しゃーないな、特別やで」
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ぎゅーっと抱きしめて。
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「めっちゃ好きや、茜さん」
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顔は見えんけど、背中越しの彼女が満足そうに笑ってくれてる気がして。
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「もっかい言うとこか?」
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「今はいい、来週また聞かせて?忘れた頃にまた聞きたい」
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「忘れんなや、ほんまに」
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「「(笑)」」
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「茜さん?…『月がキレイですね』」
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「(笑)、…死んでもいいわ」
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「(笑)知ってたん?知ってて、あの時」 
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「知ってた。でも、あの時は、単純に月がキレイだったからって方が大きいんだけど。 でも…あの時には壱馬くんの事を 『好き』だと思ってた」 
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俺も、もうあの時には…。
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「俺、最近その意味知って「はっ?」ってなったんやで?」 
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「『なんやそれ』言ってたもんね(笑)」
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思いが通いあったこの日。
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目玉焼きみたいな月の夜の事やった。
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『月が綺麗ですね』
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…next
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