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still…〜scene3〜
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『よろしくお願いします』
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 『次は撮影の日にお伺いします』
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そんな締めの言葉で、1時間ちょっとのその打合せは終わった。
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「川村さん、すみません」
俺の隣に立ったその人。
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「今回このプロモーションの責任者は紺野なんですが、私、彼女の上司の…私も、『河村』 と申します。よろしくお願いします」
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「あっ、えっ ?」
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慌てて立ち上がって、その出された名刺を受け取った。
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『商品開発事業部、部長 河村耕平』
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「同じ『かわむら』ですね、川村さん(笑)」
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 「あっ、はい。よろしくおねがいします」
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俺が後ろに立ったらまるっと隠れてしまうんやないかっていう位、背も高くてガタイもよくて。
海青より、デカイかも。
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 なんやろ…。強そうやな…でもめっちゃ優しそう。
そんな感じ。
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「何かくすぐったいですね(笑)」
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そう笑う顔は、太陽みたいにあったかくて。
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「ほんまですね。変な感じですね、何か。
あのっ、今日遅れてしまってすみませんでした」
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「いやいや、全然大丈夫です。陸さんと、吉野さんには先程ご挨拶をさせて頂いたので」
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「かわむらさん! 」
「「はいっ!」」
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スタッフの人にそう呼ばれて同じタイミングで河村さんとそう返事をしてもうて…。
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 ふふって、視線を合わせて笑ってもうた。
 出逢いそうで、なかなか出逢ってこなかった同じ苗字の人。
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「私、初めてです。同じ苗字の人と仕事するの」
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 「あっ、僕も、そうです。何気に初めてやと思います。
『カワムラさん』…何か呼んでみると、変な感じしますね」
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ふと落とした視線の先。
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「阪神 ?」
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河村さんが持ってたスマホ。
ケースは阪神のあの柄で、ポケットからちょっと覗いてるだけやのに、めっちゃ主張してる。
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「あっ、これ…昔から阪神好きで。小さい頃から『ずっと阪神で野球するんだ』って思って大学卒業まで野球ばっかりやってました。
今でもドラフトの時期になると、ひょっとしたら、声かかるんじゃないかって待ってます(笑)」
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「ふふっ(笑)俺も、好きです、野球、阪神!地元なんで」
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そこから、盛り上がった野球の話。
次の仕事がなかった事もあって、部屋の隅っこで、ま ぁまぁな大人が二人で大きな声で。
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「今度のドームの巨人戦、よかったら!」 
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「えっ?ほんまですか?」
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なんのタイミングか、縁なんか、一緒に行く事になったプロ野球の試合。
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「耕平さん」「壱馬くん」 そう呼び合うようになるまでほんま一瞬やった。
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『この人、俺にとって大切な人になる』
直感的にそう思った。
そういう感覚だけは絶対外さへん自信がある。
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「河村さん!」
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「「はい!」」

さっきと同じようにやっぱりそう返事をしてしまって、二人で目を合わせて笑う。 
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その声の方に視線を向けると、茜さんが、こっちを見て 「はっ?」みたいな顔をして。
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「ごめんごめん紺野、どした?」
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「片付け終わったんで、そろそろ」
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「あぁ…ん。じゃあ、壱馬くん。また連絡」
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「はいっ、楽しみにしてます」
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「じゃあ、行こうか。紺野?忘れものない?」
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「大丈夫です。では、失礼します」
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こっちは、相変わらず、『ハジメマシテ』を装ったまま、俺の目を一瞬だけ見て、すって目を逸らして頭を下げた。
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俺に背を向けた瞬間、耕平さんが、茜さんの持ってた荷物を黙って、すって持ち上げて。
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ドアを先に開けると、彼女に先にいくように促した。 
もう、スマート以外の何モノでもなくて。
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「あんな人、好きになって当然やろ」 正直な感想がそれやった。

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…next
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