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「よっしゃ、できたで?結、いこっ!」
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「ん!」って大きく頷くと「にぃに!」って俺とは反対側に手を伸ばして、リュックを背負うヒカルの左手を握る。
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「にぃにと行こうな?じゃあ、カズマ先行ってるから」
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「はっ?」
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俺の立場ってほんま…。
靴、履かせたん俺やって。
『おとーさんはここですよ』ってなる。
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「ふふっ(笑)」
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背中から聞こえる、笑いを精一杯こらえたその声。
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「フラれちゃったんだ…残念だね、壱馬」
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「尚、俺ってマジ何?」
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「ほら、ヒカルの方がさ、年近いし…子供は子供同士だよ、ね?そんな落ち込まないで」
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そう言って俺の隣に腰かけると、クロークから取り出したアイボリーのオールスターを持ち上げた。
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「デビューだね、この靴」
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「ん、せやな」
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結がおなかにおる頃、二人で選んだ家族お揃いのそれ。
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2歳の誕生日を迎えて今日、初めて家族みんなでこれを履いて公園へ。
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「荷物、これだけなん?」
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「ん、お弁当だけ。後は、ヒカルがリュックに入れてくれたの『俺、持ってくから』って」
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あいつ…ほんま。
ええとこ全部持ってくやん。 
そういう優しいとことか、気がつくとことか、誰が教えてくれたん?ってなるわ、ほんま。
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「よし、壱馬行こっ」
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立ち上がった彼女が、鏡の前で俺の隣で嬉しそうに足を持ち上げてて。
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「お揃いだね」って振り返ってそう笑う顔に、きゅんってなる。 
何か昔を思い出す、こんな瞬間。
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「俺、それ持つから」
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尚の右手から大きいお弁当箱を俺の右手に。
俺やってそれ位は…。
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そしたら空いてる左手が、すっと握られて。
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「尚?」
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「何か手、繋きたくなった。ほら、結が繋いでくれないし、壱馬寂しいかなって思って」
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「はっ?やっ…ん…」
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何て返していいか戸惑う俺の顔を見て、ちょっと悪そうな顔をして。 
この顔も俺知っとる。
昔からこうやって、ちょこちょこ爆弾投下してくるから。
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尚がふふんって、繋いだ手をちょっと振って、俺ら二人は子供らの後ろをゆっくり追う。
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頬に当たる温かい風と、鳥の鳴き声、遠くに聞こえる結の笑い声。
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『幸せやな』って、ぼんやりそんな事を思ってしまう位、ゆっくり流れてく時間。
隣には彼女がおる…。それが何よりの。


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尚side
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公園についたら、レジャーシートを広げたヒカルが、結とその上でコロコロ転がってて。
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「ヒカル?荷物ありがと」
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「んーん、学校行くのに比べたら余裕。
結?おとーさんと滑り台行ってきな。しゅーって!」
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「ん、とーしゃん」
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結が、壱馬の手を握ると、一気に顔が緩んで。
なんだかんだ言っても壱馬は親バカだと思う。 
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結と歩くその背中は、ちょっと悔しい位弾んで見えた。
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「お母さん」
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寝っ転がったまま、眩しそうに腕を目の上に当てたままのヒカルが私を呼ぶ。
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「ん?」
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「俺ね…お母さんと二人の時もさ、楽しかったけどさ。
カズマがいて、結が産まれて。4人になったらもっと楽しかった、やばい(笑)」
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「えっ…」
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「カズマとお母さんが結婚してよかった。それだけ!さぁ俺もいこ一、滑り台!
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そう言って、慌てて靴を履いて滑り台に向かって走ってく。
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壱馬との再会を後悔した事もある。 
別れを決めた事もある。
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 でも…諦めなくてよかった。

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壱馬 side
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「あっ、これ見て!」
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「ん?」
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その日の夜、ベットに入った尚が嬉しそうにこっちに見せてくれるスマホ。
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「あいつ、こんなんいつ撮ったんやろ…」
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「『えー、お揃い?』ってちょっと嫌そうだったわりに、嬉しかったんだよね、これ」
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「やろな。ほんま素直やない」
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「(笑)いい写真だね、でもこれ」
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「やな」
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青々をとした草の上、キレイに一列に並べられた4足のオールスター。 
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家族LINEのアイコンがそれに変わってた。
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…fin
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壱馬&尚ちゃんの anotherstoryでした。 
クリスマスに二人が買ったオールスターを家族で履く時のストーリーをずっと描きたくて。
himawanco