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Sevendays vacation〜last scene〜
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Extra day
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「おかえり、壱馬」
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「ちょっと焼けたんじゃない?」 
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「これさ、出来たばっかなんだけど、ちょっと一緒に見ない?」
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鹿児島から帰った次の日。 何か、久々すぎて2人と顔を合わすのがちょっと照れくさく感じる位で。
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陸さんが「ほらっ、座ろ」って。 
スクリーンに映るのは、完成したツアーのDVD。
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必死だった…この日のライブ。
『やらな、ちゃんとせな』って、息ができんくなる位で。苦しかった…そんな記憶しかない。
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ちゃんと客席を見てるはずやったけど…俺は何も見えてなかったんやって、その映像を見て思う。
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俺の歌に…、俺らのパフォーマンスに涙をしてくれるたくさんの人の顔が映る。
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たくさんの笑顔が……。 
そして、拳を掲げてくれてる。 
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胸の奥がぎゅーって苦しくなってくと、涙がポタポタ落ちてって。
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「嬉しいよね…、こんな風にさ、ね、壱馬?」
北人の手が俺の肩にそっと乗って。
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「『何を伝えられる』じゃなくてさ…『何かを伝えたい』ってそう思う壱馬の気持ちがさ…ちゃんと届いてるって思うよ」
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泣きじゃくる俺の頭をわしゃわしゃする陸さん。
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「もー鼻水!ほくちゃん!ティッシュ、箱ごと取ってきて(笑)」
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「はーい」
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ポンっての上に置かれたティッシュ。
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「壱馬?」
見上げたそこにいる2人は、俺の顔を見て、にこって笑う。
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「おかえり、壱馬」
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「待ってたよ、壱馬が帰ってくるの。
15人みんなで壱馬の場所、守っといたから」
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『壱馬の場所』…戻るべき、戻りたい場所が俺にはある。
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「ありがとう、ほんまに。ありがとう…ございます」
そう頭を下げた。
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「もう、泣きすぎ!ティッシュなくなっちゃうよ。ほら、行こ。みんな、壱馬が今日帰ってくるって、待ち構えてるから(笑) ぐちゃぐちゃにされるよ、絶対」
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その日…。
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16人揃ってのリハーサル。 
鏡に映るマイクを持った俺は、1週間前の自分とは別人だと、自分でもはっきりわかる。 
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今なら『アーティスト川村壱馬です』そう自信を持って言い切れる。
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茜side
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一週間ぶりに戻ってきた、東京。
会社のある街。 ビルで切り取られた空。 
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何かに追い立てられるみたいに、たくさんの音が、耳に一気に入ってくる。 
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でも大丈夫。
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目を閉じて大きく息を吸うと、波の音だけしか聞こえないあの場所にまた戻れる気がして。
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「えっ?」
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たくさんの音に混じって聞こえたのは、彼の声な気がして、その声のする方に頭を向けた。 
ビルの上に映し出されたその映像の中、知ってる彼がいて。
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「本物だった…」
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ライブ映像がちりばめられたその最後にマイクを握る彼が映って。 
CDの発売のCM。吸い寄せられるようにお店に入って、それを手に取った。
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「うわぁ、スイッチ入ってるこの顔」
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その日、家に帰って聞いた彼の歌声。
会話してる声しか知らなくて、初めて聞いた彼の歌に、心が震えた。 
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「感想、送んなきゃ」
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どこに送っていいのかわかんなくて、手に取ったスマホ。
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アイコンを、壱馬くんとの思い出の写真に変えて。 『会いたい』と、『見つけて欲しい』と願って、一言だけ書き込んだ。
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壱馬 side
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久々に聞いたインスタの画面。 
休んでた間にたくさんのコメントが並ぶ中、見つけた見覚えのある下手くそなドラえもんの絵。
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『歌うまいんじゃん』 そう書き込まれてた。
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「めっちゃ上からやん、それ(笑)」
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俺は君に見つけてもらえる場所に戻った。
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そして君を…見つけた。
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Sevendays vacation
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…fin
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前半の離島パートはここまでです。
少しお休みしてから、後半は東京に帰ってきてからの2人のお話を。
「唄えなくなった壱馬」を描いてる途中でリアルに彼が表舞台から消えるっていう、リアルと妄想がリンクして…、相当描くのを悩みました。
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いつも私のお話を読んでくれる皆さんにたくさんの「ありがとう」 を 。 himawanco