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Sevendays vacation〜scene23〜
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7th… Last day
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「おじちゃん、おばちゃん、ありがとうございました。わがままでこんな早くに出発なんてごめんなさい」
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「本当にいいの?壱馬くん起こして来ようか?」
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「んーん。サヨナラは昨日ちゃんと言ってあるから」
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「こんなに早く行かなくても」
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「朝陽を…最後に見たくて」
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まだ夜が明けきらない時間。 
『朝陽を見たらそのままフェリー乗り場に行くから』っておじちゃんとおばちゃんには昨日伝えてた。
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「はい、最後のご飯。また、いつでもいらっしゃい」 手渡してくれた、大きなお弁当。
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「こんなに?」
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「壱馬くんのはこれの倍くらいあるのよ。何かあれもこれも、最後に食べさせたいってなったら、こんなになっちゃった(笑)」
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そう笑ってくれるおばちゃんは、本当にチャーミングな人で。こんな風に年を重ねていけたらなってそう思える人だった。
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「おばちゃん、これありがとう」
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「ん、よく似合ってる」
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昨日もらったなでしこモチーフのピアス。 これをつけて鏡に映る私は、何かとってもいいい顔をしてるような気がした。
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「おじちゃんも、お酒飲みすぎないようにね。次来る時は東京のおいしいワイン持ってくるから」
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「ん、楽しみにしてるよ」
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「じゃあ、行きます!」
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「茜ちゃん?」
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ドアに手をかけた所で呼び止められると、背中にふわっと感じるぬくもり。 おばちゃんの細い腕が私のおなかに回された。
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「しっかりご飯食べて、しっかり眠って、笑ってたら、幸せになれるから。茜ちゃんは大丈夫」
そう言ってポンって叩かれた背中。
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「ん。しっかりごはん食べて、しっかりお酒飲んで、笑ってく」
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「お酒は、ほどほどにね(笑)」

「(笑)はい」
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そこからは振り返る事なく、まっすぐに海を目指した。 
楽しくて、たくさん笑って、泣いて、ケンカもして…。仲直りもちゃんとして。 
何か色んな事が詰まった1週間だったな…。
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ゆっくり歩いて海辺につくと、ちょうど朝陽があがってくるタイミングで。
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「見納めだ…」
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そう思ったら、すーって頬を涙が落ちてく。

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『寂しいな』そう感じるこの気持ちの向かう先は、きっと壱馬君で。
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昨日、海を見ながら少し触れた掌。 
不意にその手を握りそうになった…。
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 『触れたい』って。
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綿毛を見つけた場所を通りかかると、土の上はそのままの状態で。
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「いつか、必ず見に来るね」
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昨日の夜、この場所で私は
『春になったら、ここに咲くたんぽぽを見たい、壱馬くんと一緒に見たい』そう思った。

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「…好きになっちゃったな…私」
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壱馬 side
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「お世話になりました」
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「途中2人にしちゃってごめんね、またいらっしゃい」
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「はい、また必ず」
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「これフェリーの中で食べて?」
渡されたでっかい弁当。
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「壱馬くんならこれ位余裕でしょ?(笑)」
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「はい、全然余裕で(笑)」
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「嫌いなものは、抜いてあるから大丈夫よ」
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「すいません、ほんまに」
最後の最後までこうやって、気を遣ってもらって。
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「楽しかった? 1週間」
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「はい、めっちゃ楽しかったです。食べるもんも旨いし、景色もキレイやし…それに」
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「それに?」
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「やっ…ん」
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「茜ちゃんに出逢えてよかった…だよね?」
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「…そうですね、まぁまぁな破壊力のある人やったんで(笑)」
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「茜ちゃんの連絡先…」
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「いや、いいです。見つけてくれるって思うんで、俺の事。 
ちゃんと見つけてもらえる場所に戻るんで、俺」
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「…そっか、そうなのね」
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「はい。これで見つけてもらえんかったら、茜さんがサボってるって話しなんで(笑)」
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「ふふっ(笑)」
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「また、絶対に会えるって思ってます。 じゃあ行きます。ほんまに、ありがとうございました」
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深く頭を下げると、俺の肩をポンって叩いてくれたのはおじさんで。 
口数は多くはないけど、おばさんの話しをいつもにこにこ聞いてて、こんな夫婦が理想やなってそう思える。
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でかい弁当を抱えて向かったフェリー乗り場。
日没が近づくその場所は全体がオレンジがかる。
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 夏ももうさすがに終わり、肌に感じる秋の風が、何かちょっと寂しくて。
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それは、『壱馬くん』って俺の名前を呼んでくれる彼女が隣にいないからかも…かな。なんて思いながら。
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「見つけてもらえる場所に戻るから、俺。
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…見つけて?茜さん」
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いつになるかもわからないそんな未来に、不安よりもわくわくする気持ちを抱けるのは、茜さんだからで。
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「おやすみ、終了やな」
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ふーって大きく息を吐くと、自然に顔があがって。
一歩ずつ、しっかりと、迷いもなく帰りのフェリーに乗り込んだ。
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『唄いたい、届けたい』そう思った。

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…next is last scene
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