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Sevendays vacation〜scene21〜
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「最後にさ、一緒に行こうよ」
そう誘ってくれたのは茜さんで。
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「ん」
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「おじちゃん、おばちゃん。最後にね、壱馬くんと海に行ってくる」
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2人で歩き出すと、隣の茜さんがごきげんに鼻歌を歌ってて。
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「壱馬くん、何か歌って?好きな歌…歌ってよ」
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「いや…俺は…」
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「安売りはしてくれないんだ…ほんと最後位歌ってくれたって…」
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安売りをしてるわけじゃない…。
ただ、彼女に聞かせられるような歌が唄える自信がなくて。
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ちゃんと自信がある状態で、茜さんには届けたかった…
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.「えっ、綿毛?」
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彼女が急に走ってくと、道端にしゃがみこんで、「見て、壱馬くん」って振り返る。
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「ん?」
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彼女の視線の先には、たんぽぽの綿毛が二つ。
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「こんな時期に…どうしちゃったのかな。飛ぶタイミング逃しちゃったのかな」
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たんぽぽの綿毛って、5月とかそれ位なのに…って。
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そうなんや…。
俺も小さい頃、ふーってやった記憶はあるけど、その季節がいつかやったかなんてのは曖昧で。
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「あっ、一個忘れてた!」
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「はっ?」
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「私の好きな花!『たんぽぽ』。
っていうか、たんぽぽよりも、綿毛かな。
お花のカテゴリ一なのかはわからないけど」
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「どしたん、急に」
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「ほら、好きなモノの話しした時、言い忘れたなって今思い出したから」
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「今、思いだしたんや(笑)」
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こんな風にいきなり脈略もなく、そういう事を言い出す。
ほんま、話ししてて飽きんていうか、単純に面白い。
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「ふわふわして、何か自由でいいなって」
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「それがたんぽぽを好きな理由?」
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「…それもあるんだけど。
一番はね、飛んでった先がどんなとこでも、ちゃんと花を咲かせるから。
ふわふわ自由に飛んでても、行きついた場所で、しっかり根を張って、がんばれる。そんなとこが、好き」
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そう言うと、すっと立ち上がって、その一つの綿毛を俺へと差し出した。
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「よし!一緒にやろ。ふーって」
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「はっ?」
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「ほらっ」
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嬉しそうにそんな顔されたら、断るんもなんやしな…ってなって。
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「じゃあ、いくよ、せーの」
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俺の顔を見ながら頬を膨らせて一気にふーって。
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息をふきかけると真っ白い綿毛が空へと舞い上がる。
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月の光が当たって、夜空に舞い上がるその白が際立つ。
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「わー、何か天使が舞ってるみたい」
ほんまにそう。
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キラキラしながら、ふわふわ浮いてて。
初めて見るその光景は、言葉にはできなくてただ、ぼんやりとそれを彼女と見上げてた。
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「残っちゃった…」
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その言葉に、上げてた視線を降ろすと、彼女が手に持つ綿毛には、まだ少し白が残る。
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「一人で、飛ぶ勇気のない子もいるよね。
誰かと一緒に居たい子だって…。
じゃあ、次の春は、ここで咲いたらいいよ」
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それをそっと手に乗せて、足元の土の上に並べた。
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「ここで咲いてるの見たいな、たんぽぽ」
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「ん、やな」
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「壱馬くん、一緒にさっ…」
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「ん?」
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「やっ、ごめん。何でもない」
急に立ち上がって、早足で、歩き出す。
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今『一緒に…』確かにそう言うた。
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…next
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