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Sevendays vacation〜scene20〜
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6th day
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「これ、キレイ」
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「そう?じゃあ、2つ持ってるから1つあげる。ちょっと陽に焼けたし、今の茜ちゃんにはよく似合うわよ」
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「いいの?やった!」
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夕ご飯の前、ダイニングで茜さんとおばさんが二人で何やら騒いでて。
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階段を降りた先の洗面台の前にパタパタ走ってった茜さん。
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鏡の前で耳元に手をもってくその姿に、心臓がドクンってした。
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すっぴんで何もアクセサリーなんかつけてない、そんな茜さんしか知らない俺。
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ピアスをつけるその仕草に、知らない彼女を見た気がしたから。
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「ほら、かわいい。茜ちゃん、よく似合う」
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「そう?ねぇ、どう?壱馬くん」
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彼女の耳でキラキラ光るゴールドのピアス。
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「なでしこ?」
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そのデザインの花には見覚えがあった。2人で前に山で見た…。
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「そう、おばちゃんにもらっちゃった。かわいいよね、これ」
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「あー…ん」
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こういう時に『かわいいで』とか、『ええやん』っていつもはちゃんと言えるはずやのに、 何でやろ…茜さんには言えんかった。
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嬉しそうにはしゃぐ彼女に…。
いつもとは…、他の大勢に向ける言葉とは、違った事を言いたいって思ったら、頭の中がぐるぐるして、結局「ん」ってしか言えなくて。
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何しとん、俺。
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「『ん』って…。男の人ってほんと」
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「(笑)そんなもんよ。お父さんもそうだもん。かわいいって思っても『かわいい』って言えないのよね、壱馬くん」
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そうおばさんに言われて、必死に頷いて。
そんな俺を見て、2人が笑ってる。
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「ほら、じゃあ晩御飯にしよっか。茜ちゃんも壱馬くんも好きだって言ってくれたきびなごの南蛮漬け、作ったのよ」
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島で食べる最後の晩御飯。
おばさんが「色々作りすぎちゃって…」って、テーブルいっぱいの料理が並べられていく。
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「まぁ、茜ちゃんと壱馬くんならこれ位食べれるか」
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「ふふ(笑)、私ってそんな食べるキャラ?」
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「えっ?そうやろ?茜さん位よく食べて、よく飲む女の人とか珍しいと思うで?」
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「ケンカ売ってるの?」
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「いや、ほら、健康的でええなぁって(笑)」
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「壱馬くん、笑ってる!」
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「(笑)」
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こんなやりとりも今日でもうお仕舞い。
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たった1週間でここまで距離を縮められる人なんてそうそういないって思う。
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冗談言っても、ちょっとからかっても、テンポよくそれにつきあってくれて。
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何を言っても許されるとかではないんやろけど。
でも、『もぉ』ってそう笑って言ってくれるって、そんな感じはあって。
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茜さんは、子供っぽいとこはあるけど、中身はすごくちゃんと大人やんなって、本人には言わんけどそう思うから。きっと俺なんかよりずっと…。
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「もーおなかいっぱい」
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「俺も、もうさすがに無理っす」
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「いい食べっぷりね。本当に二人とも。 明日で2人とも帰っちゃうのね、なんだか寂しいな」
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素直に『寂しい』ってそう言って、テーブルを拭いてたおばさんがお茶を飲んでる俺ら2人の前に座った。
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「茜ちゃん?壱馬くん。おばちゃんのおせっかい、ちょっとだけ聞いて?明日になったら、忘れちゃってもいいから(笑)」
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手元の布巾をキレイに畳むと、俺らに合わせた視線
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「あのね?
辛くなったら…、立ち止まりたくなったら…周りに甘えたらいいのよ?ね?
『助けて』って言えばいいんだから。 二人ともいるでしょ?周りに心配してくれる人。助けてくれる人。 肩の力、ちょっと抜いてごらん?」
そう言って俺と茜さんの後ろに回ると、肩をポンって叩いて、にっこり笑ってくれる。
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「おばちゃんさ?いつでも話し聞くから、連絡しといでね。自分じゃどうしようもなくなったら『おばちゃーん、助けて』って連絡してきな。
食べたいご飯あったら送ってあげるし。お魚食べたかったらお父さんに釣ってきてもらうから(笑)」
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おばさんの向こうに見えるおじさんに視線を向けると、優しく頷いてくれてた。
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「おばちゃん…。私ねっ、魚料理は自信ないからっ。味付けまでしてから送ってね」
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顔をぐちゃぐちゃにしながら、涙をポロポロ零して。
それでもそんな風にリクエストしてる茜さん。
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「茜ちゃんったらっ…もー(笑)」
そうおばちゃんが茜さんの涙を拭う。
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ほんまの家族みたいなこの暖かい空間。
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来てよかったって、ほんまにそう思えた。
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…next
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