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Sevendays vacation〜scene17〜
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「喉乾いた」
 そう思って部屋のドアを開けると、茜さんの部屋のドアは開きっぱなしで。 
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「はっ?」って思って慌てて階段を降りてくと、ランドリースペースにその姿を発見。
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「よかった…」 とりあえずの感想はそれ。
酔っぱらって階段から落ちてたりしたらって、思ったから。
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俺のそんな心配をよそに、ドラム洗濯機の前で膝を抱えて座ってる彼女。
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じーって、その中身を見ながら。
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「茜さん?」
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「あっ、おはよ。洗濯する?後ね…28分」 
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「ん…わかった。いや、そうやなくて。ずっとそこにいてるん?」 
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「私さ、洗濯機のぐるぐるしてるの見てるの好きで」
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「ふーん…」
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ちょっと俺にはよくわからん感覚で。
時間もったいないやんってそう思ってまうから。
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もっと他にさ、何かやった方がよくない?要領重視やろって思う。
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「キレイになってるなぁって、何か嬉しくない?後さ…、何も考えなくていいじゃん。 この時間はさ…ぼーっとしてても許されるって何かそう思っちゃう」
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「ぼーっとするんに、罪悪感感じるって事?」
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「ん…何かね。何もしてないのはダメな気しない?」
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茜さんは、一見ちょっとフザケて、適当に見えて、でもすごく真面目な人。
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 ってか、少し位休んだって誰も何も言わんのに、それが出来ない人。 
そうしたいって思ってもやり方がわからなくて…。
そんなタイプなんやろうと思う。
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俺は割と「休もう」ってきめたらもう何もせんっていう切り替えは得意な方やと思うから、そういうとこは彼女とは違うなって。
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彼女と話をしたからこそ、わかる。
『同じとこと、違うとこ』
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「後25分、俺もおってもええ?グルグル見てみたい」
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「ん?」
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「一人がよかった?」
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「んーん、いいよ。どうぞ」
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彼女が座る椅子をちょっと寄ってくれて、その隣にストンと座った。
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「あっ、洗濯ものじろじろ見るのナシだよ!!」
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「そんな趣味ないわ!」
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「(笑)」
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彼女の隣に座って、ぐるぐる回る洗濯機を見ながら、話したのは、好きなモノを嫌いなモノの話。
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「散々お酒飲んで、一番最後にもう一回ビールを飲むのが好きなの」
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「えー、マジで?腹パンやん」
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「いや、原点にね、戻る感じがいいのよ。今度やってみて?」
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「俺な…ほんま虫があかんのやって」
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「男の子なのに?」
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「それ!何で男やったらさ、昆虫とかそういうのみんな好きやと思うん?そんなん偏見でしかないやろ?」
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「(笑)確かにね…。でも部屋にゴキブリ出たらどうするの?」
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「引っ越し!」
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「引っ越し?!うわー、芸能人だぁ…」
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お互い、好きなもの、嫌いなものの、共通点は見つからなくて。 
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でも、そんな考え方の人もいるんだって新発見がそこにはいっぱいあって。
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「ね?壱馬くん、どんな告白されたい?」
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「はっ?」
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「こくはく!『好きです』がいい?」
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「ん…まぁ、そうかな」
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「私さ、関西弁のさ『めっちゃ好きや』ってあれすき!」
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「いやいや、それ相手が関西人ちゃうかったら、どーすん?」
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「あっ、ほんとだ!どーしよ…」
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「(笑)ほんま呆れるわ、茜さん」
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♪〜♪〜

洗濯終了を告げるブザーがなると、彼女がすっと立ち上がる。

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「終わりっ。次、壱馬くんいいよ?」
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「ん、ありがと」
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「ちょっ!中身出すからあっち向いてて!」
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「はいはい(笑)」
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彼女が中身を取り出して、部屋に干しにあがるタイミング。
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「壱馬くん、まだそこにいる?」
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「ん?」
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「グルグル見てる?」
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「あ、ん」
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「じゃあ、これ干したら戻ってくるね」
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「ん?」
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「話しの続き」
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「…ん」
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彼女の背中とのそんなやりとり。 
どんな顔してるんかとかは全然わからんで。 
でも…『もうちょっと』 そう思ってくれたって事に間違いはなくて。
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二階でバタバタ洗濯ものを干してる音がすると、タンタンって急ぎ足で降りてくる音がして。
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自惚れかもしれん…。
でも、その急いでる感じの音は 『俺と一緒の時間をちょっとでも長く』そう思ってくれたんかなって…。
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結局お互いに「これ!」っていう共通の好きなものは見つからなくて。
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でもたくさん知った彼女の好きなもの、嫌いなもの。
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こんな時間の過ごし方…『ええな』そう思った。
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…next
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