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Sevendays vacation〜scene13〜
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4th day
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翌日。
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顔を合わすのはやっぱり気まずくて…。
目は覚めたものの自分の部屋からは出られずにいた。
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外は雨がまだ結構降ってる。
風も強そう。 おじさん達、今日帰って来れるんかなぁ。
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部屋にかかる時計は10時過ぎ。
夜食のおにぎりを食べても、さすがに腹が減って、リビングへと降りてくと。
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《買い物に行ってきます》
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そう書かれた紙と、食パンが袋のまま置かれてあって。
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はっ?こんな雨の中買い物って、何買いにどこ行くん。
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『俺と顔合わすんが気まずいから…』って予想は簡単にできて。
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そんな時に鳴った電話。
電話の向こうはおじさんで。夕方のフェリーまで待ってみるけど、ちょっと今晩も帰れないかもって。
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「あっ、はい。大丈夫です。何か適当に食べてるんで」
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やっぱり帰ってこれんか、まぁ、そうやわな。 雨も風も全然弱まる気配はなくて。
結局もう一晩2人で過ごす事に。
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電話を切って外を見たら、茜さんがどこ行ったんか急に心配になって。
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だって、俺らが今いてるここにはお店なんて1個しかない。
台風みたいな雨風。 もう俺が起きてきてから、2時間ちょっと。 どう考えたって、買い物に行っただけにしては遅すぎるんやって。
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傘を掴んで向かった唯一のお店。 ガラガラって聞けたドアの向こうには店のおっちゃんが一人で店番。 そこに彼女の姿はなかった。
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「すみません。こないだ僕と一緒にビール買ってった女の人…」
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「 あぁ、来たよ。甑州を買いに来て。でもうちにはないんよ。島の反対側に売ってるお店あるから、教えてあげたで」
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「『仲直りしたくて』ってあの子言うてたけど。ケンカでもしたんか?」 おっちゃんにそう言われて「いやっ…」って曖昧な返事しかできんくて。
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「あのっ、どこですか? お店、教えて下さい」
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俺と仲直りの為に?自分は好きじゃない焼酎買いに、わざわざ…。
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バス…って思ってバス停に行ったものの、次は2時間後。 こんなん待ってられるか。
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しゃーない。
車も何も通ってないその道を、ただ傘をさして歩いた。
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30分位歩いた頃。視線の先にビニール傘が見えて。
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こんなとこで、こんな風に歩いてるなんて彼女以外は考えられなくて、そこまで必死で走った。
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「茜さん!」
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「えっ?どしたの、壱馬くん」
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「どしたって帰ってこんから。どこまで買い物行くんやって…」
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「これ、おいしいっておばちゃん言ってたよね」
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持ち上げた右手には 『甑州』ってラベルのついた瓶。
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「焼酎好きやないって言うてたやん」
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「ちょっと飲んでみたくなったの」
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ウソつき。そうやないやんか。さっきおっちゃんが…。
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「ほら、帰ろう」
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俺の前をタンタンって小走りになった瞬間、キュって止まった足。
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「いったっ…」
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「足?どしたん?」
「普段さ、あんまり歩かないから。靴ズレてきちゃって。でも次のバス1 時間半後で、待ってらんなくて結構歩いた」
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左足首、派手に皮がめくれてて、見るだけでも思わず顔をしかめてしまう位やった。
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東京やったら、そこでタクシー捕まえて。 それはここではできん。
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「しょってく、背中乗って」
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「はっ?」
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「『は?』やない。ほら!」
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「いや、いい、いいから」
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「その足で歩いて帰るんか?」
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「ん」
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「あほか、何分かかるんよ」
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「明日の朝までには…」
ぶつぶつ言う彼女の手をぎゅっと握った。
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「煩い、とりあえず乗れ。文句言うな」
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もう勢いで言うてしまって、しぶしぶ俺の背中に乗った彼女。
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彼女の左手に握られた傘は、俺の方へと大きく差し出されてて。
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「濡れるで?」
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「濡れて風邪ひかれて『お前のせい』って言われるのは嫌だから」
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「ほんま、そういうとこ…」
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いちいち言う事が可愛げない。ってか素直じゃない。
『濡れたら風邪ひくから』でいいのに。
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そこから30分。
茜さんを背負って、雨の中を歩いた。
雨が冷たくて、手足は感覚をなくしそうやったけど、彼女と触れてる背中だけは温かった。
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「足、貸して?」
帰ってすぐ、とりあえず足の手当をせなって。
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「えっ?やっ…いい。自分でできるからっ!」
必死にぶんぶん首をふってて。
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「いや、やりにくいやん。足首って。ほら」
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そっと彼女の左足を手に取って、自分の膝の上に乗せた。
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「ちょっと痛いかもやけど、動かんでな」
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「…ん」
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観念したのか急に大人しくなった。
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消毒液の匂いと一緒に、想像できるその痛みに、俺も、うわぁってなる。
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「はい、がまんがまん(笑)」
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そう言うと、ギューってめいいっぱい瞼を閉じた顔。笑ったらあかんけど、なんかかわいくて。
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「できあがり。ちゃんと出来とるは、わからんけど」
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「…ありがとう」
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近くで合った視線…、ドキドキって一瞬で心臓が早くなった。
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…next
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