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Sevendays vacation〜scene11〜
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「壱馬君、茜ちゃんごめんね。本当に。お客さんを置いてくとか。明日の夕方の便で戻るから」
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「大丈夫です。気にせんで下さい」
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「ほんと、ご飯なんて何でも食べれるし、料理だったら、私がっ」
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「茜さん、料理できるん?」
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「やろうと思えば…ん」
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ドライブから戻ったら、おじさんとおばさんがバタバタ荷造りしてて。 
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本土の病院に入院してる親戚の体調が悪いからって、急遽向かう事になったって。 
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普通の旅館とかホテルだったらまぁ、そんな事ありえんやろって思うやろけど。 
でもそんな普通はここでは、あってないようなもの。
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お客さんであるはずの、俺と茜さんの2人で一晩お留守番。 リアルはこれやった。
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「気をつけて、いってらっしゃい」
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「ん、何かあったら連絡してね」
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バタバタと出かけてった2人を見送って、ソファにポスっと座った俺ら。
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「何しよか…。とりあえず、ご飯どうしよか」
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「そだね、どうしよ」
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「茜さん、何作れるん?」
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冷蔵庫の中身を2人で並んでがん見。
食材はめっちゃ豊富。料理好きなおばさんらしいなって。
でもそれを活かす腕が…。
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いや、俺基本的に料理なんて何もできんし。
味噌汁作って米炊く位が限界。
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「んー」
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難しい顔してた隣の彼女が、徐に取り出した缶ビール。
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「とりあえずさ、飲まない?」
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「はっ?」
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「飲んで、何食べたいか考える」 そう言って勝手に一人でプシュって開けて飲み始めた。
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いやいや、まだ15時やで?
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「ん、おいしい!飲まない?壱馬くんも」
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「やっ…。ん、じゃあ」
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めっちゃ旨そうに飲むんよな、茜さん。
何か隣でお茶飲んでるんもな…ってなる。
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「よし、やろっ。壱馬くんも手伝って!」

とりあえず一本飲み切って2本目をあけてから、2人で作る晩御飯。
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ほんま思い切りがいいっていうか、アルコールも入ると尚更で。
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 冷蔵庫にあるものかたっぱしから出して、切っては炒めて、計る訳でもなく調味料がフライパンに注がれて。 
味見もせんまま、ドンって置かれた大きなお皿に、大胆に盛られてく。
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「はい、どうぞ」
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取り皿とお箸を渡されて、ちょっとビビリながらも口に運んだ。
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ん…悪くない。ってか旨い。
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いや、そりゃおばさんが作ってくれるみたいな優しい味付けっていうのとは違うけど、がっつり食べたいなって時には、もってこいの味。 
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ましてビールとの相性は最高やと思った。
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「うまっ。マジっ?えっ?」
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想像とちゃうかって、そんな俺の反応を見て「おいしい?ほんと?やった!」って嬉しそうで。
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味見してなかったもんな…。
ほんまそんなとこが彼女らしいなと思いながら。
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炒め物の大皿料理がポンポンって2つ並んで、後はごはんと、お味噌汁。そんな晩御飯が終わって、片付けもちゃんとして。
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戸棚の中から次に出てきたのは、ワイン。
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「もうちょっと付き合ってよ」
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「…ん」
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外の雨は強さを増してて、窓にパラパラ当たる音がする。強く吹く風が時折ひゅーって聞こえてきて、何かちょっと怖さすら感じる位やった。
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普通のお茶を飲むグラスに注がれてくワイン。
カタンって俺の前に置かれると茜さんが口を聞いた。
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「壱馬くんは…何で来たの?ここ」
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…next
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