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Sevendays vacation 〜scene5〜
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「そうだ。2人ともお酒飲めるならせっかくだから、あれ飲もうか」 そう言ったおばさんが、キッチンから持ってきた焼酎のでっかい瓶。
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「あー!全然残ってない。
お父さん!これ、2人が来たら一緒に飲もうって…」
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「あっ…ん。ごめん。こないだみんなで釣りの後…。また買ってくるから」
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「もー。
これね、『甑州(そしゅう)』っていう焼酎で、とってもおいしいのよ。2人ともお酒飲めたら、一緒にって思ってて。
島の人がね、『仲良くなりたいな』って思った人と飲むお酒なの」
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「おばちゃん…私。焼酎得意じゃなくて…。癖ある感じが…」
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「そうなの?壱馬くんは?」
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「俺は、好きです。ロックでたまに…」
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「壱馬くんは飲めるのね。
茜ちゃん?これ、癖なくて飲みやすいから、2人がここにいるうちにまた買ってくるから、よかったら」
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「おばちゃんがそう言うなら…、飲んでみたいかも。焼酎以外は何でも飲めるんだけどな…」
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『焼酎以外は何でも飲める』
 マジか、やばっ。
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「「ごちそうさまでした」」
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なんだかんだで、おなかいっぱい食べて、飲んで。
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 お皿を下げようと立ち上がると、『私やるよ』って隣から伸ばされた真っ白な腕。 
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きめ細かいその細い腕を見て「うわっ、ほそっ。白っ」単純にそう思った。
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「いいのよ、2人とも。お客さんなんだから」

「でもっ、何かこういうのもやりたい気分で。一人だと、全然やらないけど(笑)」
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そう言って彼女はお皿を持ったままキッチンに入ると、長い髪をクルクルっ束ねて食器を洗い始めた。
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「壱馬くんは、じゃあこっちで…」
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おじさんに言われるがままソファに座ると、「釣りした事ある?」そう聞かれた。
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 「やっ、はい。小さい頃。小学生とか、それ位からやってないです」
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「じゃあ、明日一緒に行こうか。晩御飯、俺たち次第だから」
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「えっ?俺っ…」
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「釣れなかったら、カップラーメンだから、がんばろ」
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マジか…。 
晩御飯がかかってるとか、めっちゃ大事なはずやのに、おじさんは 「ふふん♪」って鼻歌を歌いながら、竿の手入れをしてて。
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とりあえず、俺も教えられるがまま竿を磨いてみたり。
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「壱馬くん!どっち?」
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風呂あがり、リビングに戻った俺の前に差し出された2つのカップアイス。
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「へっ?」
急にそんなん言われても…。
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「いや、俺は…」
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頭にまだタオル巻いたままの茜さん。
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「じゃあ、半分ずつでもいい?」
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「あっ…ん」
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もう、その勢いに押されるまま頷くしかできんくて。
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「はい、どうぞ」
まだ、風呂から出て1分の俺の目の前、まぁ、ダイナミックに盛られた、バニラとチョコのアイス。
グサッとスプーンが刺さってる。
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「早く食べないと、溶けちゃうよ!んー、おいし」
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『やっぱお風呂の後はアイスだよね』
って、ぶつぶつ言いながら、おいしそうに頬張るそれを見たら、なんか気が抜けるってか、緩くなる。
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『やっぱ変わってんな、この人。…でも、なんか…なんやろ』
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言葉にできない、不思議なほわっとする感覚。

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そんな事をしてるうちに終わった、島での1日目。
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部屋に戻って布団に入ると、すーって瞼が落ちてく。
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太陽の匂いがする布団。
少し開いてる窓の外から、小さく波の音が同じリズムで聞こえる。
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無音じゃないと眠れないはずやのに、さざ波みたいなその音が、心地よくて。
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いつぶりかも思い出せない位、何も考えないまま眠りに落ちてった。
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…next
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