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Sevendays vacation 〜scene4〜
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「帰ろ…」
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何か夕日を見るテンションでもなくなって。 腹減ってるしな。
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「戻りました」
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「夕日、見れなかった?」
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「いや…おなかがすき過ぎてて」
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「そっか…すぐに準備するね。出来たら声かけるから」
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そう言われて、部屋で待つことに。
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窓を開けると、波の音が微かに聞こえる。
ベランダに出ると隣の家からいい匂いがして、実家におるみたいな、そんな感覚。
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「壱馬くん、できたよ」
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何かその感じも、おかんに声をかけてもらってるみたいな。
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降りてくと、テーブルいっぱいに並べられた料理。 
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見た事もないのも結構あって、…こういうのちょっと苦手っていうか…。 
そもそも好き嫌いが結構多いって、自分でもそこはわかってるし。
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「大丈夫。苦手な物、陸くんから聞いてる(笑)」
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そう言われて、『あぁ陸さん、マジ神』って。それと同時に、心配てもらってるんやなって、ギュッてなる。
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用意されてるテーブルセットは4つ。
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俺と…もう一人お客さんって言うてたっけ。
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「僕達も一緒に食べていい?」
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「あっ、もちろん」

一人でメシよりも、その方がいい。
見られながら食べるん気遣うし…。
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一つ席が空いたまま始まった晩御飯。
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マジどれ食べても美味しくて。
東京じゃ見た事のない、キレイな色の魚。ちょっと食べるん躊躇ったけど、まぁうまくて。
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「ほんとよく食べるのね…おかわり食べる?」
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「あっ、すいません」
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最初はちょっと遠慮してたけど、一旦スイッチ入って、どれ食べてもおいしいって解ったら、もう止まらんかった。
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その時ちょうどドアが開く音がして、『戻りました』って女の人の声。
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「あっ、茜ちゃん」
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「あかねちゃん?」
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「ん、もう一人のお客さん」
そう教えてもらうと同時に俺の視界に入った人。
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「「あっ…」」
同じタイミングで声になった。
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「2人、知り合い?」
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「いや…知り合いやないです」
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「ん、違います」
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缶ビールの入った袋をぶら下げた彼女は、俺の顔を確認してて。
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『俺の事、わかるん?』って胸の奥がざわつく。咄嗟に俯いてしまって。
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カタンって俺の目の前に置かれた缶ビール。
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「あのっ、お酒、飲んでいい年齢?」
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「はっ?」
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「10代じゃ…ないよね?」
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「26です」
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「うそっ」
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「いや、ウソつく意味ないやろ」
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「あっ、ん…確かに、ごめんなさい。
じゃあ、どうぞ。さっき、心配して走ってもらった お詫びです」
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そう言ってビールを、俺の方へとスライドさせた。
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「おじちゃんも、おばちゃんも、どうぞ。
お店19時までなんだね。もうちょっと買おうかなって思ったら閉まっちゃってた」
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「ん。この島…コンビニもないからね。あのお店が閉まったら、もう何も買えないの(笑)」
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19時になったら何も買えない。 
そんな世界存在するんや、それが本音。
 24時間何でも買えて、何なら頼めば持ってきてもらえる。俺が昨日までいた世界とは全く違う世界。
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「壱馬くん?お酒飲めるの?」
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「あっ…一応」
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薦められるがまま、4人で缶ビールのを開けて、 「乾杯」って。
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「あのっ」
口を聞いたのは、俺の隣に座る、『あかねちゃん』って呼ばれるその人で。
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「紺野茜です。東京から来ました。年は32才、都内で文房具の会社で働いてます」
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明らかに『次はお前の番やで』って圧。
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「川村壱馬です。大阪出身です。26才。アーティスト…いや、歌う仕事をしてます」
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もう、黙っててもしゃーないし、嘘つくんも違うって思って本当の事を言った。
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『 アーティストです』…そう言いきれんかった。 
今、そのカテゴリーに属してるのか、自分でもわからんくて。
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…自信がなかった。
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「かわむらっ?!」
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「えっ…はい」
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「いやっ、…ん、ごめんなさい、急に大きい声出して。知り合いに同じ苗字の人いて。
…若く見えますね、一瞬10代かって思った」 
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「はっ?」
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いやいや、年齢よりももっと突っ込むとこあるやろって思うけど、彼女の返事はそれで。
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 気が抜けたっていうか、『この人、変わってんな』そんな印象。
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