.
.
.
Sevendays vacation 〜scene3〜
.
.
.
「はっ?16時すぎ?」
.
「ん、1日2便なんよ」
.
「マジか…」
.
.
いや、そりゃな…、調べて来んかった俺が全般的に悪いんやで?それはわかっとるんやけど。
.
タクシーのハンドルの横に見える時計は、まだ13時過ぎ。
.
.
後3時間。 
とりあえず行ってみるか。
何かあるかもしれんしな、腹も減ったし。
.
.
「とりあえず、お願いします」
.
タクシーを降りた先。 
ほんま何もない。
何なら、だーれもおらん。
.
.
昼飯食えるような場所もなけりゃ、コンビニもない。 
やってもうたわ…と思いながら、切符を買って、少しでも腹の足しにってコーラを買って。
.
.
.
ちょっと歩くか。
.
太陽の光が眩しくて、持ってたサングラスをかけたけど。 
『これやったら、いつもと同じやん』
…胸元にひっかけた。
.
『いつもと違う事をすれば、何かが変わるかも』なんて、小さな期待。
.
.
.
肌に当たる海風、潮の香。
耳に入ってくる音が、単音で、シンプルで、すーって入ってくる。
ぐちゃぐちゃしてないその音が心地よかった。
.
.
自然と口ずさんでたのは、自分達の歌で。
.
.
.

 『唄えるやん…』
.
.
.
.
《川村さんはどんな思いを伝えたくて歌ってるんですか?》
.
思い出したその一言に、はっと足が止まって。
.
.
.
「わからんのやって、俺も」
.
.
そんな独り言が、波の音に消えてくのを待って、また歩き出した。
.
.
.
防波堤の先にある灯台の足元に座り込んで。
どれくらい時間がたったんかな…。 
遠くにフェリーが見えて、「乗るやつあれやな…」って、乗り場まで戻ろうとした俺の視線の先。
.
.
何か白い塊みたいなんが視界に入って目を凝らした。  
.
「人か?死んでるわけちゃうよな?」
.
.
余計な事に巻き込まれるんもなって思って、背中を向けて歩き出した。
.
.
1日2便って事もあるんか、フェリーの中はまあまあ人も多くて。
えっと、泊まるとこなんやっけ…。
スマホ…ポケットの中に突っ込んだ手。
.
.
『あかん!落とした!』って焦った次の瞬間、
「持ってこんかったやんか」って突っ込んでる自分がいて。
.
.
紙にメモってきた、泊まる場所の住所と電話番号を確認。
.
何がどうなるってわけではもちろんないんやけど、アイツを手放したら何か違うもんが見つかるんかもなって。
.
.
陸さんが教えてくれた島のコテージ。
.
リノベーションっていうんやっけ、古い家をオシャレに改築してあって。
 迎えてくれたオーナーさんは、50才位かな。素敵なご夫婦。
.
.
「こんにちは」って笑顔で迎えてくれた。
.
「他にお客さん一人だけだから、のんびりしてってね」
.
.
おばさんにそう言われて、案内された部屋は、木目調のあったかい部屋で。
 窓からは、海がすぐそこに見えた。
.
.
「もう少しで日没だから、海岸から見たらキレイだよ?行ってきたら?」

「…あっ、はい」
.
まぁ、せっかく来たしな、とりあえず行ってみるか。って荷物を置いてすぐに海岸へと向かった。
.
.
『誰もいないから、心配いらないわよ』っておばさんはそう言うてたけど。
.
.
ほんま、だーれもおらん。ここに住んどる人はみんなどこにおるん?って思ってしまう。
フォトカードみたいな景色が広がる。
.
.
そんな俺の視界の隅から、タタタって裸足で駆けてく人影は、Tシャツに短パン姿。
.
真っすぐに波に向かってって。 止まりそうにないその足。
.
.
「はっ?!死ぬんちゃん?」
一回そう思ったら、もう、そうとしか思えなくて。
.
.
「あかんって!」
その人に向かって思いっきり走った。
.
.
波打ち際まで必死に走って何とか捕まえた腕。
.
.
「ちょっ、あかん!あかんて!なっ?」
.
.
言葉もおぼつかない俺の顔を見て目をパチパチしてて。
色素が薄い茶色い瞳、そこに夕日のオレンジが映って、その茶色の目が透き通っていく感じ。
吸い込まれそうやった。
.
.
「あのっ…私…」
.
そこで気が付いた。 
あー、勘違いやん。やってもうたやん、俺。
.
.
「お兄さん、『やってしまった』って思ってるでしょ?(笑)」
.
.
いたたまれなくなって、その場を離れようとしたら、握られた腕。
.
.
「はっ?」
.
「一緒に飲みません?」
.
ナンパ? …マジか?
.
「いや、俺そういうんは、大丈夫です」
.
.
勘弁してくれよ、こんなとこまで来て。

.
.

「冗談。ごめんなさい」
それだけ言うと、ふふって笑って、来た道を戻ってく。

「何や…あれ」
.
.
その人は、ストンって砂浜に腰を降ろして、隣に置いてあったビールを持ち上げてた。
.
.
夕焼けに照らされた彼女の横顔がオレンジに染まっていく。 それと同時に彼女の背中側、影が伸びていって。
.
.
砂浜に伸びるその影が、彼女の存在の証だと、何故かそんな風に思った…。
.
.
.
.
人間、真ん前から見える部分だけが、全てじゃない。…そうやろ。
.
.


…next
.
.