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Sevendays vacation 〜scene2〜
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1st day
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「よし、行こ」
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7日間。
女の人が過ごすには、かなり少な目の荷物。
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まぁ、誰とも会うわけじゃないし、人目を気にするような場所でもなさそうだし。
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玄関のドアを引いたとこで、部屋の中で鳴り出したスマホ。
気づかないふりをしてガシャンとドアを閉めた。
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仕事の相棒。
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アイツはおいてくの。
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「『おやすみ』するんだから…私」
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半分部屋着みたいなまま、飛び乗った鹿児島行きの飛行機。
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人はまばらで…。まぁそうか。別に夏休みでもないし、平日だし。
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飛行機を降りてすぐ。
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「仕事の連絡来てるかな…」
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ポケットに手を入れて、それを置いてきた事を思い出した。
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「もぉ、私。重症…(笑)」
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ポケットから出した手でタクシーを止めて、フェリー乗り場を目指した。
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「次、16時過ぎだけどいいの?島行きのフェリー」
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「へっ?」
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「1日2便だからね…(笑)さっきも同じ事言ってる若い男の子乗せたけど」
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「えっ…あっ。大丈夫です。向かって下さい」
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2時間ちょっとなら、どうにか。
コンビニ位…そう思った私は甘かった。
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降ろしてもらった先、コンビニ所か、お店らしいお店もなくて。 次のフェリーに乗るだろう車がぽつぽついる位。
他には誰もいない。何もない。
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とりあえず、フェリーの切符を買って、隣の自動販売機でお水を買って外へ出た。
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せっかく来たし、少しでも海の近くに行きたくて防波堤の先にある灯台を目指して歩き始めた。
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波の音…遠くを走る船のポーって音、海島の泣き声、それだけの空間。
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まっすぐ歩いてると、灯台の足元のとこに見える小さい人影。
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「人、いるじゃん」
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そう一番に思った自分に何かふふって笑えてきて。
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『 私だけの世界』、そんな錯覚に陥る位の場所だったから。
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その人と反対側、テトラポットの先に向かって歩き出す。
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たどりついた一番海に近い場所。 
そこに腰かけて「んー!」って背伸びした後、コロンと転がって空を仰いだ。
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10月の鹿児島は、まだほんのり夏が残るそんな感じ。
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 空の青が、まだ夏の「青」をしてて、 肌に触れる湿度を含む風がほんと気持ちいい。
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海なんていつぶりだろう。大学のサークルで行ったのが最後だっけな。 えっ…10年。
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やばっ、私。
あれ以来、水着も浴衣も着てないかも。
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就職して、好きな人に巡り合って、結婚して、子供を産んで。 
そんな普通を望んでた。
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『誰かに選ばれた…そんな人生を送りたかった』
なのに…。
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「ごめん。茜はさ、何か違うんだ。お前は違った」
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入社して1年位たったころ、取引先の人に「付き合って欲しい」ってそう言われて。
3年付き合った。この人と結婚するんだろうなって漠然と思ってた。
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『何かが違う』何それ。『お前は違った』って、どういう意味?
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あまりにもぼんやりした理由すぎて、「ちゃんと言ってくれなきゃわかんない」そう詰め寄った。
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「見た目が好みだったから声かけたけど、お前との結婚はリアルじゃない。彼女にするならいいけど、奥さんにしたいとは思えない。俺そろそろ、結婚考えたいし」
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もう、涙なんて一滴も出なくて、とりあえず2発殴ってきた。
 一発殴っても、全然すっきりしなかったから…。
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2発目を殴ったら、手が痛くて。 
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『何でこんな奴の為に私がわざわざ痛い思いをするの?』って思ったらバカらしくなって。
 持ってたバックで思いっきり背中をぶっとばして、バイバイしてきた。
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もうそこからは恋愛はいいやって。 
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だって、また…。
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『お前じゃない』そう言われるのは…やっぱり怖かった。
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同期で入った子は、入社すぐに辞めた子、結婚して辞めた子。
何人かは、ただいま育休中。
女でまともに残ってるのは私位なもんで。
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まあ、おかげで誰よりも早くに管理職にも就いた。
 仕事も、自分がやりたいようにやれてる。
まぁ部下には恵まれてるとは言い難いけど…。
でもそれでも、辞めたいとは思わなかった。
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ここにしか、自分の存在価値が見つからなかったから。
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『一人でいい』そう何度も言い聞かせた。
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でも、綺麗な満月を見た時に『月が綺麗だね』 そう言える人がいない。
…それは少しだけ寂しかった。
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ゆっくり目を開けるとそこには雲の白と、空の青だけがあって。
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「これなら、私にでも絵に描けそう(笑)」
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そう思いながら、また瞼を降ろした。
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…next
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