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KAZUMA birthday story 〜scene1〜
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「ただいま」
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仕事始めの4日。
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カンナは、取引先への挨拶回りがメインやからって直帰で。
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「先に帰ってるからね」ってLINEを確認して、俺も家に帰ってきた。
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いつもは『おかえり』って何をしてても顔を覗かせてくれるのに、その声も顔もなくて。
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 代わりにガタンガタンってでっかい音がクローゼットから聞こえる。
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何や?何があった?予想できる範囲に答えはなくて、慌てて駆け込んだWIC。
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「カンナっ?!」
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「あっ、ごめん。おかえり」
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まだスーツ姿のままのカンナの足元には、でっかいスーツケースが転がってて。
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「どしたん?これ」
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「ね?壱馬?もうちょっと小さいサイズのさ、ほらブラウンのスーツケースあったでしょ?あれ、どこだっけ?」
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相変わらず『片付け』は苦手で。
家の中で探したいものがあると、探すのは俺の仕事。
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大体の物の場所は、俺の方が把握できてるはず。
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「あー、あれな。あれはこっちやな」 彼女の背中にあるもう1個のドアをあけると、そこに目当てのモノを発見。
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「あー、これ!ありがと」
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「どうすん?出張?」
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相変わらず月に2、3回は俺もカンナも出張で。
しかも、部長とチーフって役職やから、 日程はズラして出張に行くのが殆どで。
どっちかは残ってないと、仕事に支障でるしな…まぁ仕方ないんよなって。
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結婚しとるのに、何か…。
『思ってたんとは違う』それが本音でもある。
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もっと一緒に居れるもんやって、そう思ってたから。
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『そ?でもさっ、だからいいのかもしれないよ?ずっと一緒にいるよりも』
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カンナは相変わらずそういうとこはサバサバしてて。
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ちょっと俺の方が女々しいんか?って思ってしまう位で。
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俺ばっかそんな風に思ってるんか?って。
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「壱馬!週末さ、旅行行くよ!」
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「はっ?誰と?」
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「えっ?『壱馬と』に決まってるじゃん。何言ってるの?! 7日、何の日?」
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「えっ…俺の誕生日やけど」
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「でしょ?だから、旅行、温泉。週末はスペシャルデー。壱馬の言うこと何でも聞く日!」
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新婚旅行にも行けてない俺ら。 
籍を入れたその日に、ディズニーランドに行くのが限界やった。 
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年度末やったし、とてもじゃないけど、2人一緒に長期で休みを下さいなんて、言える感じじゃなかったから。
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『言う事なんでも聞く』
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そういうとこに発想が行くとこが、何かカンナらしいっていうか。 
仕事の時は、『どうやったらそんなん思いつくん?』っていうような事ばっかやのに、こんな時はほんとベタすぎる(笑)。
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「一泊だしさ、この位でいいよね。明後日だから準備しなきゃって思って。でも、何がどこにあるのかわかんなかった」
そう、ちょっと申し訳なさそうにカンナが笑った。
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仕事は完璧やけど、家に帰ってきて、ヒールを脱ぐとスイッチオフ。きっちり彼女の中のモードは切り替わる。
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「俺やるわ、じゃあ。いるもん教えて」
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「えっと、あのブルーのセーター着たくて。後寒そうだから、カイロと、あと…」
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仕事から帰ったばっかのスーツ姿のまま、2人でスーツケースに旅行に持ってくものを準備して…。
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ほんま、ここだけ見たら確実に急いで出張の準備をしてるでしかない。

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「あー、壱馬。コンタクト!私の、もうストックなかったかも…」
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「ご心配なく、ちゃんと買ってある。明日届くで」
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「さすが!」
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「ふふっ(笑)やろ?」
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仕事ではあんま褒めてもらえたりせんから、何かそんなん言われたら舞い上がってまう俺。
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たった一泊でも2人で一緒に行けるのが、単純に嬉しくて。
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そして、2人で行く旅行の準備って、こんな楽しいんやって初めて知った。
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…next
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明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
今年のお誕生日は、壱馬とカンナの2人でいきます。全3話です。 旅行の準備って何か楽しくないですか?そういう普通の幸せっていいなって。
そこを切り取ってみました。 himawanco
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