トナカイさんにも。

「ただいま」

12月24日、クリスマスイブ。

「おとーさん、おかえりっ」

サンタコスチュームの結が、廊下をパタパタ走ってくる。

走ってきたと思ったら、思いっきりのジャンプで抱きつかれて。

いつまでこんな風にしてくれるかはわからんけど、ほんま至福の瞬間。かわいくてしゃーない。

「おとーさんは、となかいさんね」

そう言って俺の頭にのせられた茶色の角がついたカチューシャ。

「お似合い（笑）トナカイっぽいよね、カズマは」

廊下の向こうで、サンタの帽子を被ったヒカルが俺の顔見て半笑いで。

『トナカイっぽい』って何やねん、それ。

「はやくー。おとーさん」

「えっ？ん…」

結を腕に抱いたままリビングに入ると、テーブルの上には、クリスマスらしいカラフルな料理が並ぶ。

「あっ、おかえり、壱馬」

そう言って顔をあげた尚の頭にもトナカイのカチューシャ。

「尚…(笑)、よう似合てる」

「壱馬ほどじゃないけどね(笑)」

『メリークリスマス』

家族で迎えるクリスマス。

尚と2人で過ごしたクリスマスも、そりゃめっちゃいい思い出やけど、こうやって4人で過ごすのもええなぁって。

美味しそうにケーキを頬張る結。

ヒカルがそれをまた動画に撮ってて、ほんと、こいつは妹を溺愛。

「結？それどうすん？」

ご飯の後、「早く寝ないとサンタさん来ないよ！」ってヒカルの言葉をそのまま受けて、急いでお風呂を済ませた結。

パジャマを着たまま、洗面器を持ってて。

「おとーさん、これにね、おみずいれて。いーっぱい」

「おみず?」

「ん、となかいさんの」

「ん?」

小さい手に腕を引かれて連れてかれた玄関には、小さいお皿の上に乗ったケーキと、お菓子。

その隣に「サンタさん、トナカイさんへ」ってヒカルの字。

「にぃにがね、『トナカイさんは、いっぱい走ってくるから、お水がいいよ』って」

アイツ…。また吹き込んだな。

結に言われるがまま、洗面器に水をいっぱい入れてケーキの隣に並べた。

「おやすみなさい」

準備万端なのを確認して、寝室に向かった結と尚。

ものの数分でリビングのドアが開いて、「寝たよ」って嬉しそうな尚。

「サンタミッション、いこか」

シューズクロークの中から取り出した、赤と緑のリボンがかけられた箱。

中身はプリンセスの衣装とティアラ。

こういうのを欲しがるんがほんま女の子らしいなって思いながら、そーっと枕元に置いた。

リビングに戻ると、ヒカルがサンタ用のケーキとお菓子を食べてて。

「これから毎年さ、俺、追加でケーキ食べるんだよね？この感じ（笑）」まんざらでもなさそうに笑ってた。

「お前が言うたんやろ？結に」

「だって『サンタさんにもクリスマスプレゼントあげたいの、トナカイさんにも』って、すんげぇかわいくない？その発想」

まぁ確かにな、かわいい。

優しいなって思う。

「よし、ごちそうさま。後、やっとくから。行ってきなよ」

尚の方を見て、『ほらっ』て。

「ん…ヒカル、大丈夫？」

「余裕。少なくともカズマよりは、俺の方が頼りに…ね？（笑）」

結が産まれてから…。

クリスマス、あと、俺と尚の誕生日は、こうやってヒカルが結とお留守番してくれて。

『二人きりの時間』

それをプレゼントしてくれる。

「ほら、早く行かないとイルミ終わっちゃうよ?」

「っん…じゃあ。着替えてくるから、壱馬ちょっと待ってて」

バタバタと着替えに行った尚。

いつもはまとめてある髪をおろして、スカート履いて。俺が去年クリスマスにプレゼントしたネックレスをしてた。

ん…。普通にな…かわいい。うちの奥さん。

「じゃあ、お願いね」

「行ってらっしゃい、ごゆっくり」

玄関で見送られ、外に出るとまぁ普通に寒い。

「寒いね…やっぱり」

「やな…」

自然に握った左手。

子供がおる前では手は繋がないから、この時だけの特権。

「ふふっ(笑)」

ちょっと恥ずかしそうに笑って、でも、ぎゅって握り返された俺の右手。

そのままジャケットのポケットにつっこんだ。

特に変わった事をするわけでもなくて。

駅前のイルミネーションを見に行って…。

尚のお気に入りのカフェでコーヒー飲んで。

ただ、2人きりを満喫するってだけやけど、大切にしてるこの時間。

目の前の彼女が嬉しそうに笑ってる。

それが俺にとっては何よりのクリスマスプレゼント。

…next

この家族もいこうかと。

うちはバケツですが、毎年トナカイさん用にパンパンに水入ってます。サンタさんには、ハッピーターンと、カントリーマアム。　　himawanco