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Answer…~scene40~

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3年後。
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看護学校に通い始めて3年、最後の年。
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国家試験に合格したら、四月からは私も看護師として働き始める。 
夢に近づいてる…その充実感はあって。
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昼間は学校 、終わったらヒカルと一緒に宿題をして、ご飯を作ってバスケも見にいけて…。
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『これで十分…ちゃんと幸せ』
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「ヒカル?ちょっとお母さん牛乳買い忘れたからさ、送ったら買い物行ってくるね」 
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「ゲームの時間までには戻ってくる?」
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「ん、大丈夫。 走って行ってくる」
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「走らなくていいから、コケるよ(笑)運動神経悪いんだから、お母さん」
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「こらっ(笑)まぁ、否定はできないけど」
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「ふふっ(笑)」


バスケの練習の前。そんな話しをしながら向かった体育館。


小学生最後の大きな大会が近づいてきてて。 
今のメンバーでの試合も次の大会が最後。

もう毎日バスケの話。 練習ある日は体育館で、練習がない日は近くの公園で一人でずーっと練習。
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初めて「バスケやりたい」って言った時は、続かないだろうなってそう思ったのに、もう6年。

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『絶対優勝』 そう目標を掲げたヒカルは本当にそこに向かってがんばってる。
 親の私から見ても、そこに賭けてる情熱は尊敬でしかない。
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「お願いします!」

そう言いながら体育館にヒカルが入ってくとチームメイトのみんなに迎えられて。
その奥に、ほくちゃんの姿も見えた。
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私に右手をあげて 「お疲れ、尚ちゃん」って。
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ほくちゃんは、もう川村くんとの事には何も言わなくて。 それが彼の優しさだって事は十分に感じてた。 


「俺はもう何も言わない。 おせっかいもしない。もう知らない」
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怒ってる?呆れてる?って思ったけど…。
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「2人が運命なら、何もする必要はないから。俺はそこに賭ける事にしたの、神頼み(笑)」
そう笑ってた。
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いつもと変わらないそういうとこ。
私が負担に感じないように、冗談みたいな言葉くれてる。
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「じゃあ、行ってくるね、がんばって」
ヒカルにそう声をかけて体育館を出た。
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「牛乳と…。このパン、ヒカルが好きなやつだ」

決してお金があるとは言えないけど、でもヒカルが喜ぶ顔はやっぱり見たくて。
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「いいよね。 これくらい」
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牛乳とパンを買って体育館に戻ろうとした時、かばんの中のスマホが鳴り出した。
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「ほくちゃん?」

どうしたんだろ…練習もう始まってるはずなのに…。
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「もしもし?ほくちゃん?」
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「尚ちゃん!今どこ?! ヒカルがっ!」
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「えっ…」
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夕方の大きい道路…。 隣を走る車の音でよく聞こえなくて。
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「ほくちゃん…ヒカルが…何っ?」 
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「って…置いてたボールかごにっ…救急車…今っ…」
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途切れ途切れにしか聞こえない声。でもそれがいい事じゃない事はわかる。
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「尚ちゃん! 早く!」
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はっきり聞こえたその部分。
もう、そこからの記憶はなくて。
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走って戻った体育館には、赤色灯が回る救急車が到着してた。
大きく開いた後ろのハッチ。 担架に乗せられて運ばれてきたのは、間違いなくヒカルだった…。

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買ったばっかの真っ白いバッシュが真っ赤で。
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もう、それがどんな状況なのか理解できない。 足はそこで止まったままだった。
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「尚ちゃん!」
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その声と一緒に走ってきたのは、ほくちゃん。彼の白いTシャツも真っ赤…。 
これ…ヒカルの血なの…?
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「早く乗って!」
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思いっきり手を引かれて、乗せられた救急車。
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目の前に横たわるヒカルの頭の左側… タオルが当てられてた。
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真っ赤に染まってる…。
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息が上手くできなくて、苦しくて。
呼吸の仕方がわからない。
涙が止めどなくながれてく。
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「ほくちゃん…これ…ヒカル、…何で…っ?」
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膝の上の私の手をギュッと握ってくれる彼の手も真っ赤で…。
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「ライン際のボールをね…おっかけて。そこにおいてあったボールかごに、頭からっ…」
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『ライン割るまで絶対諦めない』 それはいつもヒカルが言ってる事。
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「ごめん、俺のせい…」
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ちがう…そうじゃない。
ほくちゃんが悪いわけじゃない。
運が悪かった…きっと他人ならその一言で済ませられる。
事故みたいなもんだもん、そんなの。
誰が悪い訳じゃない。
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でも…ヒカルは他人じゃないの…。
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「ほくちゃん…大丈夫だよね?
ねぇ…。ねぇ!!ほくちゃん!!!」
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真っ赤なタオルが床に放られて、 新しく当てられたガーゼもみるみるうちに赤くなっていく。
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「…ゃ…ぃやっ…ヒカル!!」
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どれくらい出血すれば命が危ないか…私はそれがわかる。
教科書のその部分が鮮明に思い出されて…。
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少しも動かないその小さい体にすがりついて、 このぬくもりがなくならない事を、ただ祈るしかできなかった。


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…next
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いきなり3年後。しかもこんなとこから。
大目に見てやって下さい(笑)
いよいよここから最終章です。himawanco
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