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※本日ニ投稿目です。
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Pray~scene28~
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朝陽が見れる時間
…それはまだ始発が始まる前で。
彼女の家までチャリンコで迎えに。
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もうすぐ3月。
でもまだ朝なんて考えられん位寒くて。
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角を曲がったとこで、白い息が…明けない空に混じるのが見えた。
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『今日は、あったかいとこで待っとくんやで』そう言うたのに…。
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「何で外におんの? あったかいとこで居れって言うたやろ?」
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「んー待ちきれなかったの!」
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マフラーから見える目元が細くなると、ギューってなる心臓。
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「んな、乗って? あの公園な」
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「ん」
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夏は歩きやったけど、今日は彼女を後ろに乗せて。
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何も言わんでもオフホワイトの手袋をした小さい手が腰に回されて。
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ダウン越しにぴったりくっついた体。
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あかんて、ほんま。
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早川さんはもう慣れたかもやけど、俺はまだまだ接近戦には心臓バクバクで。
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「お願いしますっ」
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「えっ…あっ、ん。じゃあ行くで」
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ペダルを踏み込んだタイミングでギュってその手に力が入る。やから…あかんて。
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 『朝陽を見たい』
  『俺と一緒に』 
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そんな彼女の願いを叶える事が、今日の俺のミッション。
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 夜明けの時間もちゃんと調べてきた。
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「到着」
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「ありがと」
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後ろからピョンて立ち上がると公園のフェンスまでパーって走ってく。
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「ちょっ、置いてくんかい!」
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ふふって振り返って、ちょっと悪そうに笑う顔も、よく見る顔で。
かわいい?ちゃうな…『彼女らしい』そんなとこ。
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…好きなとこ。
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「早く、川村くん!もうちょっとだよ!」
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真っ暗だった空が、7割 蒼色に変わって、 地上から5センチ位が、オレンジ。
蒼とオレンジの間は色んなイロ。
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「月も…まだ見えるね」
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朝陽が昇るのとは反対の西側の空には、光を失くして白っぽく浮かぶ月。
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「月と太陽が入れ替わってくね…」
「ん、やな」
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白く浮かぶ月はもう役目を果たして、こっからは太陽に任せる…そう思わせるようで。 
なんやろ…その朧げな白が切なく見えた。
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さっきまで、真っ暗な空で一番明るい存在やったやろうから。
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…儚く見えた。
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「あのねっ、
『朝陽に願い事をすれば叶う』
ってドラマのシーンにあって…。 
  ドラマだってわかってるのっ。でも…叶ったりしたらいいなって。これだけ綺麗ならホントにそうなのかもって。
 だから…」
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「ん?」
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「願い事… 川村くんも一緒にして欲しくて」
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「俺も?」
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「2人なら効果2倍でしょ?」
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「そういうもん?(笑)」
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「ん、多分(笑)」
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そう言って俺を見るその瞳に、まっすぐ太陽の光が差していく。
キラキラする瞳がゆらゆら揺れだして。
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「泣かずに、お別れできますようにって」
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「えっ…」
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「最後まで、笑っていられますようにって
、お願いして?」
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「…そんなん、イヤや」
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「…っ」
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「俺はイヤやで? 『お別れ』も『最後』も。 それはちゃうやろ?そんなん…意味わからん!
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『いつまでも、ずっと…笑っていられますように、俺と一緒に…北人と3人で』

そうやろ?…何言うとるん!
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『お別れ?』 ちゃうやん! ちょっと距離ができるだけ。俺らは何も変わらんよ?
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早川さんが会いたいって思ったら、チャリで長野まで行くし。
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 焼肉食べたいってなったら、 持ってる金全部持って、北人と行くからっ! 
 最後なんかない! これからもずっとや。
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  俺は早川さんがどこにおったって側にいてるで? 物理的に無理かもしれんけどっ、でも側におるから。
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声聞きたいってなったら、いつでも電話は繋がるし。
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やから…お別れなんかちゃう!」
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ポタポタって彼女の頬を涙が落ちてく。
キラキラって、朝陽がそれを照らして。
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ぎゅーって力一杯抱き締めた体。
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「これからもずっと早川さんと一緒にいられますように」
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それやろ?願い事なんて、他になんてない。 他の何かなんて、そんなん認めへんで?
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オレンジの分量が増えてく空。
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眩しい光の筋が俺らを照らして。
 『希望の光』 そう、はっきりと感じる力強い明るさ。
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「川村くんと、これからもずっと一緒にいられますように」
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涙を零しながら呟く彼女を抱きしめて「そうや?それが正解」そう、声をかけた。
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ドラマの設定でもなんでもええ。
縋れるもには何でも縋る。 
世間体とかそういうのも、何も気にならん。
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この手を離してたまるか。
『大切や』この気持ちを誰かに奪われてたまるか。
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「川村くん…好きだよ?ほんとに」
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「俺も…めっちゃ好きや」
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言葉にするのはお互いに苦手で。
でも、この朝は思ったままを素直に口にした。
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リミットが近づいてきてる…そう感じたから。
…必死やった。
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…next

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明日から少しお休みしまーす。家族サービスです(笑) himawanco