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Pray~scene27~
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『バレンタイン』
そのイベントをこんなに意識した事なんて初めてやった。
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チョコが貰えるとかは正直どうでもよくて、 彼女が俺の為に…ってそれがもう嬉しいでしかなくて。
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北人が「尚ちゃんもほんと真面目だよね、努力家っていうか…、お似合いだよ、ほんとお前らは」
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最初は何の事かわからんかったけど、
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「俺、バレンタインまでに、もうチョコ嫌いになりそ。尚ちゃん、毎日さ…」って。
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そこまで聞いて、俺の為に?…って気づいた。そりゃ嬉しいに決まっとる。
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ここ2週間位、何か様子がおかしいっていうか、授業も上の空で。
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机の中に見える「基本のチョコレートケーキ」って本。
隠してるつもりかもやけど、隣の席の俺からは丸見えやけどな(笑)
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そういうちょっと抜けてるとこも、好きなんよな…俺。
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その日は、 ありえん時間に目が覚めて。
大分早く学校に着いたけど、何かあからさまに 『待ってました』なんもかっこ悪い気がして。
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くそ寒いのに、裏庭の花壇で時間をつぶしてみたり。
ほんま俺、何しとん。
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「そろそろえーかな」
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『いつもの時間に来ました』 を装って教室に向かうと、「おはよ、川村くん」いつもの彼女がいた。
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「おはよ、早川さん」
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「今日、放課後さ… 一緒に帰ろ?」
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「あっ…ん」
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なんやろ…、ちょっと緊張しとる感じが俺にも伝わってきて、真っすぐ目は見れなくて。
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「おはよー!見て!」
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パンパンにチョコが入った紙袋を両手にぶら下げてる北人がここで登場。
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「北ちゃんすごい!」
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「まぁ、毎年これ位はね…。こんなモテるのにさ、誰かさんは俺を実験台に··· 『ほくちゃ ん!』」
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「ごめんごめん、で? 壱馬は? 」
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「はっ?俺は義理チョコとか、そういうのはいらんのやって」
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「壱馬は、本命だけでいいんだもんね?」
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「そや?」
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「うわっ、ほんと真面目が洋服着てるわ、コイツ」
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「何やそれ」
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早川さんと、北人が顔を見合わせて笑ってる意味はよくわからんかったけど、褒められてるんではない気がする。
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なんか、学校中が浮足立つその日。
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「帰ろか?」
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「あっ、ん」
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「尚ちゃん! ファイト!」
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何か嬉しそうな北人と別れて、歩き出したいつもの道。
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彼女が持ってた紙袋を右手から左手に持ち変えると、ポケットに入れてた俺の手を引き上げてそっと握った。
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「…えっ? 」
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「こっち見ないで!恥ずかしいから!」
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いつもは俺から手を繋ぐのに、何やろこの特別感。
やばっ。
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冷たいその手を握り直すと、左に見える彼女が少し笑った気がして。
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きゅってなる心臓。
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「あそこ、寒いけどいい?」
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「ん」
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秋には銀杏が綺麗なその通りに置かれた小さいベンチ。
2月なんて人通りなんてなくて、並んで座ると息が白く変わる。
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「えっ…あの…えっ?バレンタインって何て言って渡すの?」
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「(笑)俺に聞く?」
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「いやっ、あのっ?えっ?」
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「めっちゃテンパるな、今日(笑)」
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寒いはずなのに、顔が赤くなるのが、愛しいでしかない。
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「『好きです』とかやないん?」
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「あっ、そっか。 …川村くん、好きです」
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「素直に言うんや(笑)」
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「もぉ!はいっこれ! あげる!」
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「投げやりや(笑)」
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膝の上に置かれた赤い箱。
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「あけてええ?」
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「…ん」
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そっと開くと、売り物みたいなチョコケーキ。やばっ、嬉しい。泣きそう。
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「食べてええ?」
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「今?…ん」
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崩すんイヤやなぁって思ったけど、こういうんて感想を聞きたいもんかなって思って。
そのまま持ち上げてカプって。
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「そのまま?(笑)」
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目を見開く彼女の顔を見ながら、口いっぱいに頬張った。
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「ん…んまい!美味しい!ほんま、お世辞ちゃうで?ほんまに! ほんまやから!」
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「逆に怪しいよ、それ」
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「いや、食べてみ?」
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彼女の口元にもそのまま持ってくと、小さい口がカプって。
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「ん、おいしい!」
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「やろ?」
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「よかったぁ 」
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「ありがと、ほんま嬉しい」
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箱にケーキを戻すとカードがくっついてるのが見えて。
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「あっ…や…、あのねっ!」
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『川村くんと、朝陽を見に行きたいです』
そう書いてあった。
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「ごめん! 本当は 『大好き』 とかそういうのだよねっ?これ、なかった事にっ!」
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早口になる彼女… もう、こういうとこもな…、かわいいでしかなくて。
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「早川さん?」
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「…ダメ?…ダメか、さすがに」
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「 朝陽…。ん、ええよ。いこっ!」
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「いいの?」
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「もちろん」
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1個でも多く彼女の願いを叶えてあげたい。
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彼女が見たいもの、したい事を。
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…その瞬間、俺は隣におりたい。
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…next
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明日から、家族サービスでお休み予定です。28話を今晩インスタにあげるのと一緒にこちらにもpostします。また夜、時間ある方は覗いて下さい。
himawanco
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