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Pray~scene25~
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.「ねっ?怖くないよね?落ちたりしないよね?!」
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「『観覧車、落下しました』なんてニュース見たことあるか?」
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「それは、ないけど…」
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「やろ?大丈夫やから」
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繋いでた手をぎゅっと握り直して、乗り込んだ観覧車。
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≪行ってらっしゃい≫
そうスタッフの人に笑顔で見送られて。
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やのに、相変わらず、手をぎゅーと握って俯いたまま。
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「ほら、見てん?」
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下を向いたままの彼女に出来るだけ明るい声で声をかけると、ゆっくりと上がる顔。
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閉園間近で薄暗くなってきてる夕方。
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段々観覧車があがっていくと、遊園地の周りの街灯にポツポツとオレンジがともるのが見える。
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「「あっ!」」
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2人同時に声になったのは、遠くに見えた大きな川にかかる橋に、青い光が灯ったから。
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クリスマスに一緒に見たイルミネーションと同じ色合い。
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声になった瞬間、立ち上がった彼女がふわってバランスを崩して揺れた観覧車。
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慌ててその右手をひいた。
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「死ぬかと思った…」
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俺の腕の中、彼女の鼓動が早くなってるのを感じる。
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「観覧車で立ち上がるとか、 何しとん」
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「…ごめん。綺麗で、思わず」
肩越しに聞こえる声が段々小さくなってく。
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「ふふっ(笑)めっちゃ反省するやん」
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「…怖かった」
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「やな(笑)、怖かったな…。もう大丈夫やから」
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背中をポンポンって叩くと、小さく頷いて。
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「もうちょっとで、てっぺんやで?」
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「ほんとだ」
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少し体を離した彼女を俺の隣に座らせて… 後5秒で、てっぺん。
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彼女と視線がばっちり合ったままで、瞬きすらできんかった。
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クリスマスのキスの事が頭を過る。
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何か言うてからか…?
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そう一瞬躊躇った瞬間、 軽く重ねられた唇。
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「えっ…」
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「『迷ってます』って顔するからでしょ?」
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そう言うと、ふふって笑ってた。
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「えー、こういうんさ、男からするやつやんか」
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「じゃあ、やり直す?」
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「それもちゃうやんかー」
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肩を落とす俺を見ると、悪そうにまた笑って。
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「楽しかったよ、ありがとう、川村くん」
2回目は、ゆっくりと重なっていった。
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3秒後。
離れようとする体をギュッと抱きしめて。
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「もっかい。 下、着くまで…ずっと」
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夕焼けから、 夜空に変わる色が見られたはずのその時間。
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下に着くまでの限られたその時間を惜しむように、何度も唇を重ねた。
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不安も、悲しさも、嬉しさも、愛しさも、全部、全部分け合いたくて。
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俺の背中に回された掌に力が入ると、ぐっと引き寄せられた。
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自惚れかもしれん。
でも…『好き』
そう聞こえた気がした。
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外の景色を見る事はできんかったけど、観覧車なんて、またいつでも乗れるから…。
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いつもよりも少し会えない時間が多くなるだけ。
電話もLINEもある。
会いたいと思えばなんとでもなる。
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ずっとそう言い聞かせて、あの日以来過ごしてる。
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「楽しかったな、今日」
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「ん、楽しかった。チュロスおいしかった!」
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「最後にグルって回っとくか?(笑)」
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「回りません!!」
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「「ふふ(笑)」」
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そう笑う彼女とおれる今を、何よりも大切に....。
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『大好きやで…』
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…next
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