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Pray~scene17~
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「そろそろだよね?」
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「やな、17時点灯やったから急ごっ」
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指輪の入った袋を下げて、2人で向かったイルミネーションが有名な大通り。
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「点灯する瞬間がいいんだよね」 って彼女が言うから、そこへと急ぐ 。
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ちょっと早足になる俺の後ろを「待って」 って息をはずませて、その息が白く変わっていって。
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「間に合ったぁ」
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 「危なかったな、ほんま」
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目的の場所には、もうスマホを街路樹に向けてる人が多くおって。
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「私もっ」 
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「じゃあ、俺もっ」
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17時を告げる鐘の音と一緒に、少しずつ点いてく灯り。
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ブルーとシルバーの光が眩しい位で 。
「わー」って歓声があがる。
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「キレイ…」
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スマホを構えてたはずの、彼女が腕を下してただその光を見上げてた。
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「撮らんでええのん?」
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「やっぱりレンズ越しなの、もったいないもん…」
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視線は光に目をやったまま、俺にそう言って。
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そんな彼女に向けてシャッターを切った俺。
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 この瞬間を絶対忘れたくない…そう思ったから。
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「川村くん…」
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「ん?」
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ギュって握られた掌。 
早川さんがイルミネーションから、俺に向けた視線。潤んだ瞳。
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何も言わずに、ふわって笑った。
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 言葉はなくても、彼女の 「幸せ」 って気持ちをしっかり感じてた。
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「あっこ、座ろう」
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人混みから少し離れた場所。

 自販機で買ったミルクティを差し出すと「ありがと」って。
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「やっぱり寒いね」
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「やな…そろそろ帰ろな」
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「ん」
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『今年のクリスマスは雪が降るかもしれません』
ほんまその通り、陽が沈むと一気に冷え込んでくる。 ミルクティを両手で握りしめる彼女も寒そうで。
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「ねっ、それ…」
指さした俺が持ってた袋。
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「あっ、忘れとった」
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「もぉ。 普通忘れないよ?川村くん…ってほんと」
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「うっさい、うっさい」
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袋の中から取り出した指輪の入ってる箱。
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「私、あけていい?」
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「ん」
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ミルクティを受け取って、代わりに渡した白い箱。 ゆっくりと蓋をあけて。
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「えっ…」
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指輪と一緒に入ってるシルバーのチェーン。
それを見て、さっき言われたことの意味がわかった。
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「こういう事やな…」
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持ってたミルクティを置いて、その箱に手を伸ばして取り出した。
俺が作った早川さんの指輪をシルバーのチェーンに通して。
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「これなら、ずっとしておけるやんな」
彼女の首の後ろにそっと手を回した。
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胸元に俺が作ったリングが揺れる。
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上手なんて言えるもんでは決してないけど。それにそっと触れた彼女が「どうしよ…」って呟くと、ポタポタって涙が落ちてく。
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「えっ…」
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「嬉しい…どうしよ、ね?川村くん」
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上げた顔は、満面の笑みで。
でも涙が頬をどんどん伝ってく。
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「泣く笑うか、どっちやねん...」
鼻をすする、彼女の涙をそっと拭う。
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「嬉しくて泣いてるの!わかってよ!」
そう膨れる頬。
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そっと両手で包むと、揺れる瞳に俺が映って
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…静かに唇を重ねた。
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キスって、もっとドキドキするもんやって勝手に思ってたし、
『何て言うてから、したらええん?』とか色々考えてたけど、そんなん何も必要なかった。
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 『好きや』って思ったら勝手に体は動いて。
  『愛おしい』 ってそう感じたら自然に彼女に触れてた...。
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俺らのファーストキスは、そんなキスやった。
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ゆっくり体を離すと、この時になってようやくドキドキと、やってしもうた感で、まともに彼女の顔なんて見れんくて。
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俯いた俺の頬を、彼女の冷たい両手が包んで持ち上げた。
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「ちょっと!川村くん!」
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えっ?俺、怒られるやつ?
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「いやっ、あっ、や…」
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「『好きだよ』とか言ってから、シて欲しかった…。 初めてだったのに…」 
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消え入りそうな声でそうブツブツ言ってて、 こみあげる笑い。何なん、それ。
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「早川さん?」
俺の呼ぶ声に上がった視線。
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「大好きや」
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今度はそうちゃんと言うてから、チュッて触れた頬。
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 一瞬固まったかと思ったら、一気に顔が赤くなって、 もうその顔がおかしいでしかなくて。
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「もう、いいよっ!それでいいもん!ほら、川村くんも!」
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箱から取り出した俺の分の指輪をチェーンに通すと、首に回された細い腕 。
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距離が一瞬で近づいて、止まった空気。
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「っ…」
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「……めっちゃ好きや」
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唇が触れる距離でそう呟いて、ゆっくり触れた3回目。
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「これが正解なん?」 
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「…ん、120点」
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そう満足そうに微笑むと、すーってまた一筋涙が落ちてった。
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…next
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ええなぁ、こんなファーストキス。
キャーってなる。暑さと仕事疲れで頭の中がお花畑な私(笑)    himawanco