Pray～scene16～

「こっちにもお店ある！」

ちょっと路地に入ったとこ。

お客さんが2組以上は入らんだろ？みたいなお店。

入口には、ちょっと話しかけ辛そうなお兄さんがいて、目が合うと「いらっしゃい」てそう呟いた。

「川村くん、ちょっと見てもいい?」

いや、1000円で買えるようなもん、こんなとこ絶対ないやろ?。

シンプルなシルバーのリングやネックレスが丁寧に並べられてて。

「早川さん。さすがに、これ買えんやろ?1000円」

小声で彼女の耳元囁いた。

冷やかすつもりで入ったわけやないけど、俺らみたいな高校生が来るような店ではきっとないやろうし。

「だね、0が2個多いね(笑)でも、これ素敵」

彼女が見てた指輪はごついナットみたいな指輪。

「こんなん好きなん？」

「ん、そう」

意外すぎて、ちょっと固まってしまう。

見た目からして学級委員長っていうタイプの彼女。

でもちょいちょい見せる、男前な部分。

アクセサリーの好みこんなんなん？マジか…..

つけられたシルバーが、細い彼女の指で存在感を放ってた。

「予算いくら？」

低いその声に2人で振り返ると、店のお兄さんが入口に凭れたまま声をかけてきた。

「あの…2000円で2人分」

「はっ?」

「いやっ、すみません」

圧が強すぎて、2人で固まってしまって…。

「そこにあるのは無理だけと、2人で作るっていうなら、2000円にしてやってもいいけど？」

「えっ?」

「こっから作るなら」

お兄さんの掌の上、それ本物のナット?

「こっから削ってくの。それができるならいいよ2000円で。金ないんだろ？高校生か?」

そう言うと、サングラスの奥の瞳がちょっと笑ったような気がして…。

緩んだ口元に張り詰めてた空気も和む。

「川村くん!これ！これにしよ！」

「えっ?あっ…ん。えっ? 俺やった事ないけど」

「私もないよ？そんなの、あるわけないじゃん」

この子、こういうとこ…ほんまに。

「彼女…ウケる(笑)大丈夫、教えてあげるから。こっちおいで」

「はい!お願いします」

俺の事なんて見向きもせずに、後ろをついていく。

マジか…こんなんできるん？騙されてるんやないんか？そんな事が頭を過ったり。

「はい、座って。ほら彼氏も」

でも、ここまで来たら帰るわけにもいかんし、並んで2人で座った作業場らしい場所。

カランって俺らの前に出された金属のわっか。

「じゃあ、こうやって…」

お兄さんが、早川さんの後ろから手を回して、機械にそっとそのわっかをかけると、工事現場みたいな音がして、角が取れてく。

「わー、すごい！ね？」

「ほら、手元見て！彼氏の方見ない!」

「はいっ」

少しずつ削られていく表面…。綺麗にアールを描く。

早川さんのが完成して、次は俺の番。

こういう細かいの、確かに好きやけど….

機械のスイッチが入ると、ブーンって音がして。

俺の耳元、彼女に聞こえない位の声でそっと呟いた。

「ここ、いいとこ見せるとこ！わかる？がんばれ！」

そう言うと「じゃあ、一人でやってみ?」って。

「はっ？！」

そう思ったけど、もうそんなん言える雰囲気でもなくて、掌の汗を着てたパーカーでぬぐって、小さなそれを手に取った。

「川村くんすごい! 器用」

なんとか形になったそれ。とても売り物みたいとは言えない出来やけど。

でも彼女の為に必死で。

「じゃあ、2000円な」

2人で財布から1000円札を1枚ずつ出してカウンターに並べた。

「ほんとに、2000円でいいんですか?」

「そう言ったろ?」

「でも」

「じゃあ…、2人がもし結婚するってなったら、うちの結婚指輪買いに来てよ」

「え…」

結婚なんてそんなの、考えた事もなくて、2人で固まってしまって。

「冗談冗談(笑) 『もし』だから『もし』。

これ、うちのショップカード。今の話し、覚えてたらまたおいで」

「あっ、はい」

そう言って俺に差し出してくれたカードと、小さな袋に入れてくれた指輪。

「この中、俺からおまけ入れといたから。指輪なんて出来ないだろ?学校」

そう俺の耳元で囁くと、ポンと叩かれた肩。

何の事なんかこの時はわからんくて、曖昧に頭を下げた。

「「ありがとうございます」」

少し歩いて早川さんと振り返ると、小さく手を上げてて。

渡されたカードに一緒に目を落とした。

『CLAIR DE LUNE 登坂広臣』

「変わった名前だね、ひろおみだって」

「やな…」そう返事をして財布にしまった。

『CLAIR DE LUNE』

その意味がわかるのは、もっとずっと先。

…next

今回も登場おみくん(笑)。 himawanco