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Pray~scene14~
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北人side
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『早川さんの両親って不倫してるんだって。だから越境してきてるらしよ?』
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そんな噂を耳にしたのは、期末テストの結果が返ってきた日。
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クリスマス。
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2人が付き合うようになって初めて迎える大きなイベント。
バカみたいにテンションがあがってる壱馬を見ながら、俺も単純に嬉しくて。
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『どこ行こう』とか『何買おう』って毎日の様に同じ事を聞いてくるのを適当にあしらいながらも、2人がこのままの関係を続けていけるのを願ってた。
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なのに…。
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『何それ、最低』
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わざわざ尚ちゃんの耳に入るそんな音量で。 
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「尚ちゃん?」返事はなくて、俯いたまま鞄から教科書を出してた。
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『なんかイヤ。気持ち悪い』
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その言葉に手が止まると、ぎゅーって掌を握った。
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「やめ 『適当な事言うなや!』」
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後ろから聞いた事もない壱馬の声がして。その声に振り返ると、怒りに震える目。
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「そんなん、何の根拠があって言うとんや!」
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彼女の元へと近寄る壱馬のその足を止める、小さく呟かれた言葉。
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「最低。私もそう思うよ…」
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「っ…」
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「気持ち悪い、私だってそう思うもん、わかってる…」
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そう言うと、ポタポタって尚ちゃんの掌に涙が落ちて。 逃げるようにその場を離れようとした尚ちゃんの前に、すって壱馬が立って。
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「早川さん…」
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「ごめんね」
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それだけ呟いて走ってった。






壱馬side
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今年初の雪が…そんなニュースをテレビでやってたその日。
朝の教室はいつもと雰囲気が違って。
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聞きたくない、そんな内容の話やった。
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みんなの視線が集まる先、俯いたまま。
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『なんかイヤ。 気持ち悪い』その言葉に、血が止まるほど握られた掌。
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ポタポタって、大きな涙の粒が落ちてくのがはっきり見えて、その涙に息が止まりそうやった。
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教室を出ようとする彼女の前に立つと「ごめん」 ってただそれだけで。
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一瞬だけ合った視線。
瞳いっぱいに涙がたまってた。
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後を追って何を言うとかそんなん何もわからんくて。でも追わない選択なんてない。
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「待って!」
ようやく捕まえたのは自転車置場の階段のとこ。
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捕まえた腕を振りほどこうとする事もなく、 反対側の手で何度も涙を拭ってた。
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「授業、始まっちゃうよ?」
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「ええから、そんなん」
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「数学だよ?」
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「怒るで?」
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「…ごめん」
そう言うと、そこに蹲って。
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 「川村くん…。さっきの全部本当なんだよ」
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「えっ……」
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上げた顔。真っ赤な目で俺の目をまっすぐに見つめてた。
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「パパもママも不倫してる。それが広まって地元の高校には行けなくて。
気持ち悪いよ、最低だよ。私だってそう思うもん。
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…でもっ」
そこまで言って外された視線。
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「…私のパパとママなの」
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その言葉の後ろには、『2人の事が大好きなの…』そう聞こえた気がした。
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「みっけっ!」
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その声の方、目を向けると俺らをおっかけてきた北人。
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「尚ちゃん。期末テストの結果ってさ、今回も1位?」
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「えっ?…ん」
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「じゃあ、大丈夫だね」
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「ん?」
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「よし、今日は3人で!はい、これ」
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北人の両手には、俺と早川さんの鞄。
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「壱馬も行くだろ?」
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「はっ?当たり前や」
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「いこっ、尚ちゃん」
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北人が早川さんの右手をギュッて握って校門まで走り出して。
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「待てや!ちょっ!北人!」
その後を俺も追っかけた。
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今にも雪が降りだしそうな寒い空の下、息があがるまで俺ら三人は走った。
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ただひたすら、一生懸命走った。
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「何でダッシュなの?…ほくちゃん」
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膝に手を置いて、息を整える彼女の顔は呆れたように笑ってて。
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「マジ、お前のダッシュについてけるわけないやろが、あほか、ほんま」
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「運動不足だね、2人とも(笑)」
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そう平然とした顔をしてる北人と3人で顔を見合わせると自然に「ふふっ」って笑えた。
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「尚ちゃん。大丈夫だよ? 俺も壱馬もいるから…ね?」
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「え…」
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「心強くない?こんなイケメン2人が味方なんて」
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「…ん。ん、そうだね。確かにそうだ。2人ともイケメン…?ん?(笑)」
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「こら!そこは素直に『うん』って言うとこ!」
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「ふふっ(笑)だね」
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「俺、おなかすいた! そういや、俺、2人におもてなしされてないんだよね。 焼肉…昼から食べれるかなぁ」
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「おいっ!誰もおごるとか言うてない!」
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「いこーよ焼肉。ねぇ、尚ちゃん!」
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「行くー!川村くんのおごり」
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「はっ!? 早川さん!?」
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「ふふっ(笑)嘘っ!2人で、おもてなしします!」
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「やった!」
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嬉しそうに先に駆け出した北人の背中を早川さんがおっかけて、一番後ろ、俺もゆっくり歩き出した。
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大丈夫。 3人でおれば、何があったって笑ってられる。
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そう、信じられた。
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…next
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