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Pray~scene13~
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『川村くん…私ね?』
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「…ん」


先に口を開いたのは早川さん。『ん』としか言えない俺。



「…あー!やっぱり待って!言う、俺言いたい!」
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「えっ…」
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ガバッて起き上がると、隣の彼女も同じように勢いよく起き上がって。
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真っ直ぐに合った視線。
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瞬きをパチパチってすると、大きな瞳が俺を捉える。
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意を決して、 ふーって大きく息を吐いた。
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やっぱり俺から伝えたい。そこは譲れんかった。

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「早川さん。俺な?好きなんよ、早川さんの事。 
『告白は自分でしたい』ってそう言うてたけど。でも、俺もそうやから。
 俺も自分で言いたくて。
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好きです…ん。 好きなん」
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もう、勢いに任せてバーって喋るしかできんくて。 伺うように上げた顔。
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「……私、言いたかったのに」
 そう言うと、少し膨れた顔で俺を見てて。
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 「やっ、あのっ。でもっ、俺な…」
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どう反応していいかわからん俺を見て、『ぷっ』て笑う。
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「私も、好きです。川村くんの事、大好きです」
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しっかり俺の目を真っすぐに見て、伝えてくれたその言葉。
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「あっ…ん。ありがと。ありがと?おうてる?この返事」
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「ん、どうだろ(笑)」
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ふわっと緩んだその表情。それっ、その感じがほんまに好きで。
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そんな彼女の後ろに流れる星。
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「早川さん!あれ!」
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そう指さすと同時に、秒間隔で数えきれない星が流れてく。
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「うわー、やばっ」
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「ほんと、すごい!」
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空が明るくなる位の無数の星が、俺と彼女の前、右から左へ流れてく。
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この感動を表現できる言葉なんてなくて…ただそれを2人で見上げてた。
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 そっと不安げに触れられた掌。
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…ギュッと握り返した。
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翌日。
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「って事でな…」
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「マジか…やったじゃん」
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俺の肩を「テレんなって」って少し強めに押すと、そう笑う北人。
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「ん…まぁ」
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「報酬 、何にしようかなぁ。 焼肉食べたいな…俺」 
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「北人?これさ…俺、こっからどうすん?」
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「はっ?」
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告白した翌日
『どうだった?』って連絡があって。
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とりあえずちゃんと『ありがとう』は言わないかんって思って向かった北人の家。
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勉強机にもたれながら飲んでたコーラをブッて噴き出した。
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「『どうすん?』ってお前本気で言ってる?」 
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「ん、もちろん」
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だって 『好きです』とは伝えたし『好きです』 とは言うてもらったけど、やからって別に何が変わるわけでもないし。 
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「ないの?壱馬は。…尚ちゃんとほら、デートしたいとか。こう、キスしたい!…とか」
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「はっ?えっ?俺…やっ…お前っ!何っ…」
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そっか、そういう事なん?そういう事か…?
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手を繋いだだけであんなドキドキして、いや、無理やろ…。
 えっ?いけんの?
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また俺の頭の中は、ちっちゃい俺が総動員で会議中。
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「まぁ、今までと特にかわんないよね、2人は。むしろ、付き合ってなかったのが不思議だもん。 俺からしたら…」
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「そうなん?」
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「尚ちゃんが壱馬の事好きっていうのも結構前から知ってたよ?俺」
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平然と、まぁまぁぶっ飛んだ事を言うてくれる。
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「はっ?」
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「あの子わかりやすいじゃん。だって普通行かないでしょ?好きでもないヤツと放課後に2人きりで図書館とか」
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「そっか…... 確かに」
って事は俺、自信もってもええって事?
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「そっか…やっとだな、2人とも。
俺、がんばった甲斐があったわ、ほんと」
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「ん…... それは感謝しとる。 ありがと」
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「じゃあ、やっぱり焼肉な。せっかくだしさ。3人で行こうぜ?2人で、俺をもてなして? (笑)」
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「お前…調子のりすぎ」
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でもほんま、コイツがおらんかったら、絶対俺は彼女に思いを告げる事はなかったって思う。 
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そもそも、好きやってその気持ちに気づく事もなかったかもしれん。
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「北人?じゃあ、上限3000円で」
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「はぁ?焼肉3000円なんて一瞬だから」
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「俺、 金ないんやって」
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「知ってるよ、そんなの(笑)」
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知っとって3000円って、お前、俺に死ねって言うとるようなもんやぞ、ほんま。 
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なんだかんだでうやむやになりつつあった焼肉は、ある日突然やってきた。
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…next
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