.
.
Pray~scene10~
.
.
.
.
段々と近づく距離。
.
.
.
朝学校に行けば、彼女が先に来てて。

.
俺の「おはよ」に「おはよ、川村くん」って微笑む。
.
.
授業中、半分寝てたら、彼女に脇腹をボールペンでツンツンってされて。
驚いて椅子から落こっちた俺を見て『ククッ』て笑っとる。 
.
.
昼飯の後、珍しく眠たそうな彼女。
.
体を前後に揺らすその緩んだ横顔。
小さく聞こえる「すーすー」って寝息を聴きながら、ぼんやり見てた。
.
.
「こんな顔もすんやな…」
.
それは、 隣の席の俺だけの特権。
.
.
.
放課後は、北人のバスケを2人で見に行ったり、図書館のいつもの大きな窓の前の席で勉 強を教えてもらって。
「休憩しよ」って、自販機で買うミルクティー。
.
『当たれ!』って、言いながら押すボタン。
目をギュッて閉じたその真剣な横顔がほんまおかしくて。
あたらんやろ、そんなん(笑)
.
.
 俺は…図書館までの道をゆっくり歩く2人の時間が何よりも好きやった。
 .
 .
  俺のオチのない話しを聞いて、少し間を置いて『ぷっ』って笑うその顔。
.
.
.
.
もう『好き』ってその思いは、いつでも伝えられる位いっぱいやった。
.
でも、一歩踏み出す勇気はやっぱりなくて。
.
 もし、あかんかったら、今のこの時間はもう一生なくなる。 …やったらこのまま。
.
.
.
『近づきたい』
それよりも、
『遠くなりたくない』
 …その方が大きかった。
.
.
「壱馬っ!!」
.
.
昼休み。眠いわって、机に伏せてた体。
バンバン背中を叩きながら、俺の耳元でっかい声で。
.
「わーわー言うなや。ってか痛い。 むっちゃ痛い!バンバンすんなっ!」
.
「そんな事言ってる場合じゃない! 尚ちゃん!」
.
「早川さん?」
.
「うちの先輩! バスケ部キャプテン!告白するって!今から尚ちゃんに」
.
「はっ?」
.
.
耳を疑いたくなるようなこの状況。 パッと目をやった隣の彼女の席は空いてて。
.
.
北人の先輩。
.
その人は俺も知ってる。
.
バスケの練習を見に行ったら、ほんとこの人だけ別次元じゃね? って思える位上手くて。
.
あの北人がすっと交わされてく。
.
.
「すごいよねぇ。さすがキャプテンだよね」 って彼女がよく言うてた。
.
 めっちゃモテるって…、そういう話しに疎い俺でも知ってる位、うちの学校でも有名な存在。
.
そんな人が早川さんの事好き?マジか…。
.
「何で、さっさと捕まえとかなかったの?」
.
「えっ?はっ?」 
.
「尚ちゃん。もしOKしたらどうすんの?」
.
「えっ…ゃあっ…やって…」
.
結局勇気を出して言えなかった俺が情けないでしかなくて。
.
後悔で心の中はいっぱいやった…。
.
.
.
「尚ちゃん!」 
その北人の声に視線を向けると、 何もなかったみたいに、彼女がこっちに歩いて来て自分の席に座った。
.
.
.
「…尚ちゃん?」
.
「ん?」
.
いつもと何も変わらん。
.

.
「今さ…バスケ部のさ…」
.
「あっ、ん。『好きなんだけど』って、言ってもらった」
.
ちょっと赤くなった顔。
 やっぱり…そりゃそうやん。
 だって、どう見たってかっこいいもん 。
.
男の俺から見たって、普通に憧れるわ。
女やったらOKする、絶対。
.
.
.
「返事したの?」
.
北人…もう聞かんでええって、聞くまでもないやろ。
.
「ん、ありがとうございます。…でも、ごめんなさいって」
.
「はっ?はぁっ!?」
.
.
思わず出たでっかい声に2人の視線がこっちに向いて。
.
「(笑)川村くん?」
.
「あっ?えっ?断ったん? いつも練習見てる時、 かっこいいって言うてるやん」
.
「ん、かっこいいとは思うけど…。だから好きって、そうはならないから」
.
「そうなん?」
.
「じゃあ、川村くんはかわいい子だったら誰でもいいの?」
.
「いやっ、ちゃう。そんなんちゃう!」
.
.
何を必死なんや、俺…。
.
.
そんな俺を見ると手を口元に持ってって、またクスって笑う。
.
.
.
.
「私は… 好きな人には、自分から告白するの。そう決めてるから」
.
.
初めて知った…。今までそういう話しはしたことなかったな、そういや。
.
.
.
 「尚ちゃん、男前だね」
.
.
ちょっと引き気味な北人を見て 「でしょ?(笑)欲しいものは自分で手を伸ばして捕まえるの、私」って。
.
.
そうなんや…ちょっと意外で。
.
.
 何かそうなったらなったで、より一層ハードルあがったっていうか。
 .
 じゃあ告白してもあかんやつ?彼女に好きやって思ってもらって、告白してもらうん待ち?
.
.
…無理ちゃうか、それ。
.
.

「川村くん。これ食べないんなら、ちょうだい。 お昼食べそこねちゃった」
.
.
そう言いながら俺の机の上のメロンパンを持ち上げた。
.
「あっ、ん」
.
.
おいしそうに、彼女の顔位あるメロンパンを頬張るその顔。
.
.
.
.
一番近くにおる自信はあるんやけどな…
.
 早川さん好きな人おるんかな。
.
それを聞く勇気すらない。
情けな、俺。
.

.
.
.

…next
.
.
.