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Pray~scene7~
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「私、自転車…」
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「ないん?」
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「ん」
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「じゃあ、俺の後ろ乗って?ほら、俺バスケ部だし、壱馬よりは体力あるから」
北人が荷台をポンポンって叩く。
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はっ?ざけんな。お前さっき 『応援する』って…。
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「あかんっ!お前さ、昔から2人乗り苦手やろが!早川さん、こっち」
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彼女の制服をちょこっとだけ摘まんで俺の後ろに促すと「…ん」って小さく頷いて、ゆっ くり座った。
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「尚ちゃん?壱馬さ、そんな安全運転じゃないから、ギュッて握ってな?ギュって」
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 「えっ…」 
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北人が早川さんの手を取ると、俺のおなかにその手を回して、俺の顔見て悪そうに笑った。
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やばっ…。
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 彼女の腕が俺に触れて、背中に感じる暖かさに、心臓がありえん位バクバクする。
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「お願いします」
そう背中に呟かれた言葉に「んっ」ってそんな返事しかできんくて。
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「よし、じゃあいこーっ!」
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何か無駄にテンション高い北人の後ろについて走り出した。
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今日あたり梅雨明けか?っていう位、ぬけるような青空で。 
たくさん降った雨のおかげか、木々が青々して見える。
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少し湿度を持つ風。それがほんま気持ちいい。
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「きもちぃーねー、尚ちゃん!」
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隣を走る北人がそう声をかけると
「んーきもちいい!」 そう声がして。
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少しずつ、いつもの彼女が戻ってくようで。
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後ろに乗ってるその顔は見えんけど
「ねっ、川村くん」
そう言ってくれるトーンは、いつもよりもちょっと高めで。
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「やな」そう返した。
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『よかった』 …ほっとした。
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「ここ!」 彼女の声に停めた自転車。
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俺の後ろから、ゆっくり降りると、
ガードレールの切れ目を指さして「ここから、降りてくの」って。
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舗装なんてされてないけものみち。
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「キャッ」
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また雨が残ってる葉っぱの上、ローファーなんで滑るに決まってる。 
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「危なっ」咄嗟に握った彼女の腕。
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「ごめんっ」
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「ええから、下までつかまっとって」
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俺の腕を掴むように握らせると、少し遠慮がちに、でもちゃんと握ってくれる。
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5分位歩くと、感じる空気がちょっと冷たくなって、耳に入る水の音。
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大きく息を吸うと、胸いっぱいに、新鮮な緑が広がってく感覚。
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「あっ、あそこ」
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彼女の声の先。
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視界が拓けて小さい石が転がる川沿い。
 鳥の鳴き声、水の音 。葉っぱが風で揺れてさわさわって。
 日常からは切り離されたそんな場所。
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「やばっ。ちょっ壱馬、見て?」 
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水際にいた北人に手招きされて向かったそこは、底まではっきり見える位透き通ってて。
 小さい魚が泳いでるのまでちゃんと見えた。
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「透明だよね、これ。···綺麗」
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「やばっ。俺、こんなん初めてやわ」
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俺らの隣にしゃがんだ彼女が、手を水につけると、その瞬間、キラキラって川が反射する。
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「ん…、ほんと綺麗。小さい頃来た時とかわんない。 
水冷たいね、まだ。…でも気持ちいい」
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そう俺の方を向いて笑う顔。

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あっ、ん、間違いない。
早川さんの事好きやん…、俺. 
ドキドキって、一気に早くなった心臓。
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「俺もやろー」
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「じゃあ、俺も」
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三人で並んで水の中に手を突っ込んで、その冷たさと気持ちよさに顔を見合わせると、同じタイミングで自然に声になった。
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「「「やばっ(笑)」」」
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「ここね?夏でもあんまり人がいなくて。 星も綺麗に見えるんだよ?」 
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木が生い茂ってて、見える空は正方形に切り取られてた。
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親指と人差し指で作ったフレームを空に向けた早川さん。
「木が邪魔でさ、たったこれだけしか見えない空なのに、キラキラって…。ほんと綺麗なの」
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そう俺に教えてくれる瞳。その大きな瞳に俺が映る。
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「夏になったらさ、また来ようや、3人で」
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「だね、次は水着持参で。お菓子とスイカも」
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「北ちゃん?」
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「尚ちゃん楽しみだね。あっ、壱馬大丈夫?虫多いよ?夏(笑)」
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「行けるわ、あほ。虫よけスプレー、よっけ買ってくる」
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「ふふっ(笑)」
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そんな少し先の約束。
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それを楽しみに…。
そんな風にして過ごして行きたい。 
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『彼女と一緒に』…そう思った。
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…next
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アオハル全開♥️ himawanco