.
.
.
Pray~scene3~
.
.
.
「なーおちゃん」
.
「ほくちゃん、おはよ」
.
.
私の前の席、ストンって腰を降ろしたほくちゃん、朝から100点の笑顔を向けてくれる。
.
.
.
.
始業式の日。
.
.
 「初めまして、吉野北人です。 ほくちゃんです。 早川さんは…何ちゃん?」 
 .
「えっ?」
.
「早川、何?下の名前」
.
「あっ、なおです」
.
 「尚ちゃんね。よろしく」
.
.
女の子よりも白い位のきめ細かい肌。
長い睫毛。
.
人懐っこい彼の周りには、男女関係なく人が集まってた。
.
.
.
ほくちゃんと話しをするようになって、クラスの友達とも少しずつ打ち解けていくことができて。
彼は、男友達っていうよりは、女友達に近い、そんな感覚。
.
.
.
「ねぇ、尚ちゃんてさ… 好きなやついるの?」
.
「えっ?」
.
今までそんな事聞かれた事なくて、持ってたペンケースが大きな音を立てて床に落ちた。
.
「えっ?あっ!」
.
.
慌てて拾う私の視線の一番向こうに見える真っ白のスニーカー。 
.
転がった消しゴムを拾った大きな手。
.
.
「あっ、ありがとう」
顔を上げると、川村くんで。
.
.
『朝から、派手にやってんな』そう笑った。
.
.
「俺がさ… 『好きなやついるの?』って聞いたの」
.
私の後ろから声がして、それを聞いた目の前の川村くんが「おまえっ!」って北ちゃんをグって睨んで。
.
.
その2人のやりとりに、こみ上げる笑い。
.
「仲いいよね、2人」
.
「まぁ、お世話係的な?なぁ、壱馬?」
.
「お前なっ」
.
川村君が口を開こうとした時、鳴ったチャイム。 
諦めたように、自分の席に戻ってった。
.
幼馴染みの2人は、ほんと仲良さそうで。
いつの間にか私はその2人と過ごす時間が増えてってた。
.
2人と過ごす時間は、ずっと笑ってられて。
.
『寂しい』も、『悲しい』も、少しもない、ただ、楽しくて、可笑しくて。
笑いすぎて、涙が出る…そんな経験も初めてだった…。
.

.


「早川、ちょっと」 
.
「はい」
.
その日の授業の終わり、先生に呼び出された進路指導室。
.
.
「これ… お前本気か?」
.
.
差し出された進路調査の紙。
.
名前を書いて、自分が希望する番号に丸をつける。ただそれだけ。
.
「はい」
.
自分が該当する番号はなくて、欄外に書き込んだ。
.
.
『就職を希望します』って。
.
「お前の成績なら、指定校推薦だって。就職って…ご両親は?早川のご両親、お医者さんだって…」
.
「…私の将来は自分で決めます。両親は関係ないです」
.
 まだ何か言いたそうな先生に頭を下げて強引に部屋から出た。 
 .
 .
 .
 進学なんてしたら、あの家からは出られない。
.
.
.
「どしたの?尚ちゃん?」
.
教室に戻ると、ほくちゃんが心配そうにやってきて。
.
.
「ううん。 何でもない」
.
「尚ちゃんは…進学? 何学部に行くの?」 
.
「んー、まだ決めてないかな」
.
「そっか、 でも尚ちゃんの成績ならどこでも行けるか。いいなぁ。ね?壱馬? 」
.
「あっ…そやな」
.

.
.

壱馬side
.
.
.
早川さん、何か言われたんかな?
.
様子がおかしいっていうか、いつも話しをする時は、ちゃんと目を見て話ししてくれる子やのに、その時はずっと外したままやった。
.
.
その日の帰り、図書館におるんかな?って覗いたのに、おらんくて。
.
 「電話してみよかな」ポケットからスマホを取り出した。
.
.
***
.
「俺が先に連絡先聞くから、壱馬もその流れで聞けよ?いい?自然にな、しぜーんに」って北人に何度も念を押されて。 
.
『自然に、自然に…』そう唱えながら、なんとか聞いた連絡先 。
.
「あっ、おっ…俺もっ…連絡先っ、交換いい?」
.
少し笑いながら「いいよ」って。
.
それを聞いた瞬間、心の中、でっかくガッツポーズしたな。
.
それが一週間前の出来事。
.
***
.
.
連絡先を交換したものの、何を話したり、LINEしたらいいかわからんくて。
.
毎日学校で会うし…タイミングを失ってた。
.
連絡するんは今日が初めて。
なかなか押せないボタン。
 .
 『何で図書館いてないん?』ってそんなストーカーみたいな事言えんし。
.
.

「あー無理っ!」
.
ちゃりんこに跨がったまま、口から出た心の声。
.
隣を歩いてた3歳位の男の子とお母さんに、むっちゃ笑われた。
.
 もう、マジなんなん?
.
とりあえず仕切り直しや!諦めて家へと帰った。
.
.
家に帰ったら、風呂入れとか、メシ食えとかほんま。
俺…今さ、考え事しとんよ。
.
.
自分の部屋に入って、スマホの明かりを灯すと21時。
.

まだ寝てないやんな。
.
風呂入ってたりするんかな。
いや、俺、何考えてるん。
ちゃうちゃう、そんな事考えてないって。
.
.
もう頭ん中、ちっちゃい俺がいっぱいおる。 総動員で会議中。
.
.
呼び出した名前に、ふーって大きく息をついて「ん」って覚悟を決めてタップした。
.
.
.



1回、 2回…彼女を呼ぶその音に、心臓が早くなる。
.
.
…next