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Pray~scene2~
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彼女に初めて会うたんは、合格発表の日。
掲示板の前。
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『大丈夫やって』なんて、周りのやつらと話しながらも内心めっちゃ不安で。
それを悟られたくなくて、少し輪から離れたとこへ。
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 掲示板の一番隅っこに立って、ふと隣を見ると、真っ青な顔して俯いてる女の子。
 この子、大丈夫か?
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 一旦気になったら、その子から目が離せんくて。
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「わー!!」って周りの歓声でようやく我に返った。
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「壱馬受かってる!俺ら、受かってる!」
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北人のその声に「マジか?」って掲示板に目をやった瞬間。
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俺の手をぎゅって握った小さい手。
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「あっ! ある!!あった!!ね!」 ってその子に言われて。
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「おっ、ん。おめでとう」
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多分そんな事を言うたと思う。
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動揺する俺を見て、パッてされた手。
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 顔が真っ赤に染まってって。
 「ごめんなさい!」って走ってった。
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彼女はきっと覚えてないやろうけど、俺は今でもはっきり覚えてる。
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こんな印象的な出会いなんて、そうそうあるもんじゃないやろうし。
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入学式でめっちゃ探したもん。あの子どこやろ…って。 
そしたら同じクラスで。
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「『はやかわ なお』か...」
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名前はわかったものの、 接点なんて何もない。
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『合格発表の日の事覚えてる?』なんて、言う勇気なんてないし。
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『早川さんて、学区外からの受験らしいよ。 何か家 、訳アリなんだって』
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そんな噂が耳に入ったのは入学して少ししてから。学年トップの成績の彼女。まぁ、嫌でも詮索の標的にはなるわな。
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 そんな噂話が彼女自身の耳に入ってるんかはわからんけど淡々と 授業を受けて、帰ってく。
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結局1年の間、同じクラスやったのに、まともに話しなんてした事もなくて。
俺なんて、認識すらされてないって思う。
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二年になってクラス替えをして。 
新しいクラスに彼女の姿を見つけた時は「よっしゃ」ってなった。 
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話しはできんかもやけど、同じ空間におるだけで嬉しいっていうか…。
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二年になって、あの変な噂もなくなって。
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少しずつ彼女の周りに友達が増えてく。
輪の真ん中にいるようなタイプでは決してないけど… 優しく笑う子やった。
.何かそれを見てるだけでもう満足やった。
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「また見てる」
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「はっ?」
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「尚ちゃんの事、また見てる」
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「尚ちゃん?」
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「早川さん、なおちゃんでしょ?名前」
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「お前そう呼んでるん?」
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「ん。尚ちゃんも、ほくちゃんって呼んでくれるけど?」
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椅子の背もたれに肘を乗せて「結構前から仲いいよ?俺」ってドヤ顔。
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もう開いた口がふさがらん。
北人のこういうとこ。
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「何?壱馬も仲良くなりたい?『かずくん』って呼んでもらう?ねぇー、なおちゃん!! 壱馬がさ…」
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「あー!ちょっ、お前来い!ええから来い!」

北人のネクタイをひっぱり上げて問答無用に教室から出た。
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「苦しっ。 死ぬっ!死んじゃう!」ってバタバタする北人を連れて向かった中庭。
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「お前!余計な事っ!」
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「だって、仲良くなりたいんでしょ?尚ちゃんと。んー、じゃあ放課後、図書館行きな?そこにいるから」
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「そうなん?」
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「ん。前言ってた。落ちつくからそこで勉強するんだって」
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「そうなんや…」

「うまくいったら、昼メシー週間な」
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「はっ?」

「尚ちゃん、モテるよ… 。俺の周りでも狙ってるやつ結構いるもん。壱馬は親友だから、この情報教えてやったんだかんな。
のんびりしてたら、他の奴らにも流すよ?この情報」
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「おまっ…」
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「好きな癖にいつまで指咥えて見てんだよ!って話。じゃあな。」
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そう言うと、俺の肩をポンって叩いて教室へと戻ってった。
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『えっ?俺、好きなん?』
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まだ自分の気持ちにそんな自覚はなくて。
でも 『狙ってる奴がおる』北人のその言葉に背中を押されて図書館に向かった今日。
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『川村君』って、多分初めて名前を呼ばれて。
 認識されてるってそう思ったら、テンション上がってもうて。
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わからん数学を丁寧に教えてくれる。
キレイな字が、俺のノートに乗せられていくんをぼーっと見てた。
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彼女を駅まで送る帰り道。
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聞きたい事、いっぱいあるのに。 
何か話さないかんて、そう思うのに。
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もう、チャリのハンドルを握る手が色が変わりそうな位ドキドキして、結局何も聞けんかった。
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 自然に早足になってた俺の後ろをタンタンってついてきてくれて。
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『 ゆっくり歩けよ、俺』って、自分でもそう思うのに、もうどうしようもなくて。 
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「じゃあ」って背中を向けたら、もうダッシュで自転車を漕ぐしか。
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 彼女が俺の背中を見送ってくれてるなんて思ってもなかった。
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何で振り返って、手振ったりできんかった、俺…。
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『笑って、手を振る』ハードル高いわ。
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…next
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壱馬の親友役で登場。ほくちゃん。
アオハル感、満載でいきます!!  himawanco
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