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Only one~scene21~
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「岩田さん、お待たせ」
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「ん、いこっか?」
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「ん」
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彼女の笑った顔をまた見たくて…。
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色んな理由をつけて、ご飯に行ったり、ドライブをしたり。
そんな一年を今俺は、曖昧に過ごしてる。
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自分が属する場所に名前なんてなくて。 「友達」 でも 「彼氏」でもない。
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それでも、そばにいたくて…。
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ほんの少しずつだけど、敬語が取れて、少し後ろを歩いてた彼女が、隣を歩いてくれるようになって。
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『俺でも…』そう思い始めてた。
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『いつか』 は来るかもしれないなんて、小さな希望を持って。
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「今日は付き合ってもらっちゃって、ありがとう」
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「全然大丈夫。あぁいうの嫌いじゃないし、連絡もらえて嬉しかった」
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壱馬と別れてから季節が一周しようした頃、ようやく引っ越しを決めた栞さん。
引っ越したものの、テレビの設定やら何やら、『うまくできなくて』 って連絡があって。
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理由はなんであれ、 彼女の中に浮かんだ一番が俺だって事は率直に嬉しかった。
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「岩田さん、晩御飯ごちそうさせて?何がいい?」
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「んー、 何だろ…栞さん何食べたい?引っ越ししたから、やっぱりおそば?」
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「私の好きなものに付き合ってもらったら、意味ないよね…(笑)」
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「そう?それもアリでしょ。あっ、あれ!」
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俺達の視線の先、銀杏の木があって、風が吹くと、黄色がひらひらと舞ってた。
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「綺麗…」
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「これ、栞さん、好きなやつだよね?」
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「ん、このカサカサってね…」
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舞う銀杏じゃなくて、足元のそれに目を落とすと、ショートブーツで嬉しそうに、その上を歩いてて。
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『愛しい』
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その伏し目がちに微笑むその横顔が、ほんと苦しくなる位、大好きだった。
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「これで、俺、コンプリートだ」
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「えっ?」
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「去年のクリスマスのイルミネーション、こたつのアイス。それで、銀杏のカサカサ…」
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彼女の三大好きな物。
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「…岩田さん?」
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「ん?」
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「ありがとう、側にいてくれて。私ねっ…」
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「ほら行くよ、ごはん。お蕎麦かなぁ…、ビールも飲んじゃう?日本酒かなぁ、ねぇ?」
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途中で無理やり切り上げた会話。
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聞きたくない。
彼女が何を言いたいのか、わかるから。
何度も俺に伝えようとするのを、毎回遮って。
その度に、何ともいいようのない顔をして…。彼女が罪悪感に押し潰されそうなのがわかるのに、俺はそこから先を聞けずにいる。
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…ずっと栞さんの中にはまだ。
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それが、側にいればいる程、わかるのに。
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人通り多い夕方の街を歩いていると、正面から歩いてくる知ってる姿…。 隣に女の人を連れてた。
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『会わせたくない』そう思って脇道に入ろうとしたのに、「栞さん?ですよね」ってその 女の子がこっちへ駆け足でやってきて。
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隣の彼女の足が止まった。
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壱馬を一瞬見るとすっと視線を外して。
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「こんばんは。お久しぶりですね、栞さん。 彼氏さんですか?」
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「小林さん、ちゃうから。俺の兄貴」
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「えっ?栞さんて壱馬くんのお兄さんと付き合ってるんですか?」
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「いやっ…私…そういうんじゃ…」
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消え入りそうな声でそう言うと、俯いてしまった彼女。
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「これから壱馬くんと国家試験の合格のお祝いでご飯行くんです。 一緒にどうですか?」
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「ちょっ、待てって」
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「何で?いいじゃん。 人数多い方が楽しいでしょ?ずっと勉強ばっかりで、外でご飯食べるのなんて久しぶりで。一緒にお祝いして下さいよ。 お店すぐそこなんて」
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そう言うと、その女の子が栞さんに腕を絡ませて強引に連れてって。
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そんな2人の後ろを追いかけようとする俺の腕を壱馬がぐっと握った。
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「栞と?そうなん?」
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「あぁ…、そうだけど」
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咄嗟に口から出た嘘。
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すっと俺の腕から手を離すと、
「…最低やな」
そう小さく呟いた。
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ほんと、最低だよ。
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お前に言われなくても、そんなの自分が一番わかってる。
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弟の彼女…。
弱みにつけこんで、今、俺は隣にいる…。
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鳥肌がたつ位最低だよ。
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でも…それでもいい。
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…お前には渡さない。
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…next
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