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Only one~scene7~
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「紹介するよ。 俺の高校時代の友達。 アメリカ帰りのドクター」
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「初めまして、岩田です。…えっ」
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「あっ。こんばんは。 ···朝倉です」
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あまりにびっくりして思わず固まってしまって。次の一言が見つからない。
 名前を名乗るのが精一杯だった。
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〜ただいまより、新郎新婦の~
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自己紹介もままならないうちにお色直しが終わり、 披露宴が始まった。 
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その後もゆるく続く結婚式。
 岩田さんはたくさんの人達に囲まれて楽しそうに話してた。 
 みんな久しぶりなんだろうな、海外から戻ったって言ってたし…。
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そんなにお酒を飲んだわけでもないのに、 立ちっぱなしで慣れない格好だからか、少しふわふわする感じ。
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外を見ると、広いお庭の隅っこに置かれたベンチ。
 ちょっと風に当たってこよ。
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「ふぅ…ヒール高すぎたかな、やっぱり」
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頬に当たる風はもうしっかりと秋で、でもアルコールで火照った体には気持ちいい。
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「ちょっとだけ」
ヒールを脱いで足を投げ出すと、得られる解放感にぐーっと背伸びをした。
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空を見上げると、微かに光を放つ星空。
高くなったな、空。 夏に壱馬と見上げた時はもっと近かったのに…。
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何気なく伸ばした右手。
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壱馬とお揃いのリングが薬指で存在感を放ってた。
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『左手は、あけといてな』
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そう言ってこの指輪を贈ってくれたのは昨年のクリスマス。 あのツリーの下で。
うれしくて涙が止まらなくて。
幸せだなって、浮かれてた。
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そっとその指輪に触れると思い出すさっきの言葉。
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『責任感、感じて…』
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私はそれを壱馬に背負わせてしまってるんだろうか。 彼の右手にもあるこの指輪。
 これが彼を縛り付けてるのかな。
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「やっぱり迷信だったのかな?」
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その声に視線を戻すと、岩田さんがグラスを2つ持って、ゆっくりと私の前に。
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「はい、どうぞ。 幸せからは一番遠い顔してるよ?大丈夫?」
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差し出されたカクテルグラス。
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「あっ、私、もうお酒は…」
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「大丈夫、ノンアルコール」
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そう言って、私が伸ばしてた右手にそれを握らせた。
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「隣いい?」
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「あっ、どうぞ」
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「まさか、こんなとこでまた会うなんて思わなかったな」
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「そうですね」
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「ドレス姿もキレイで、びっくりした」
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「お世辞だと思って聞いておきます」
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「ふふっ、 結構本気なんだけどな。
 名前、教えてもらっていい?
 朝倉さん、下の名前は?」
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「えっ?あっ、栞です」
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「栞さんね。 素敵な名前、よく似合う」
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照れるでもなく、そんな事をサラっと言うのは、海外が長いからなのかな…。
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「寒くなる前に戻ってくるんだよ?」
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すっと立ち上がるとニコって笑って私に背を向けて歩き出した。
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不思議な人…。 柔らかい雰囲気で、温かい笑顔を向けてくれる人だった。
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「栞さん?」
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ふと止まった足。 ゆっくり振り返ると呼ばれた名前。
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「っ、はい」
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「偶然も、3回重なれば、それは 『運命』 だって、 そう僕は思うんだ。 だから、もし次会える事があったら、君をその指輪の相手から奪いたいって思う。
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僕なら、さっきみたいな顔はさせない」
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そう言うと、私に背を向けた。
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何? 今の...
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酔ってるの?からかってるの?
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もう、イヤだ。
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ぐちゃぐちゃな気持ちのまま、 披露宴は終わりを迎え、2次会組を見送ってタクシーに乗りこんだ。
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「早く帰りたい。…壱馬に会いたい」

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…next
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今回のお話、キーパーソン登場。
お蕎麦やさんの彼、がんちゃんでした。
雰囲気上手く伝えられるようにがんばります!  
himawanco