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Only one~scene2~

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「壱馬くん、久しぶり」
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新しく始まるゼミの教室。
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俺の隣の席。見上げたその顔。 
誰やっけ? 背がすらっと高くて、栗色の前髪が目にかかる。
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「わかんないか、さすがに。 中学同じだったんだよ? 何年か前、ほら、神社でお正月に」
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「あっ…」
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栞がバス停で泣いてた日。 
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あの時、俺に話しかけてきた
「小林 里香です。 雰囲気変えたからわかんないでしょ」
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「あっ…うん。ごめん」
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「いーよ、いーよ。大丈夫。
これからよろしくね。専攻一緒でうれしい」
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そう言って、隣に座ると目にかかる長い髪を耳にかけた。
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中学の時に 『好きです』 って告白してくれた彼女とは、全然雰囲気が違ってて、そのギャップに戸惑った。
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「壱馬くん?この後の懇親会行く?」
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ゼミの顔合わせの後、 机の上を片付けなから、そう聞いてきた彼女。
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「あぁ…ん。そういうん、あんま」 
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「行こうよ、みんな行くって言ってるし。 私も久々話したい」 
ストレートに誘ってくるその感じがあんま得意じゃなくて。
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「ねっ?」
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「…じゃあ、ちょっとだけ」
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「よし、じゃあいこっ」
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『川村くんも来るって』 そう言って幹事の元へと向かった小林さん。 
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あー、押し切られてもうたな。 
栞に連絡せな。
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取り出したスマホ。
そこに映るのは、去年のクリスマスの写真。
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『ほんま、目真っ赤やな』
スマホを見る度にその時の事を思い出す。
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授業の合間、ちょこちょこアルバイトをして、なんとか貯めたお金で買った指輪。
高いもんでは決してなくて、石もないシンプルなお揃いのシルバーリング。
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初めてちゃんとしたクリスマスプレゼントを渡せたその日。
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「こんなんで、ごめんな。医者になったら、もっとっ」
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「何で? 嬉しい… 嬉しいに決まってるじゃん、こんなの」
口元を抑えてポロポロ涙を流して。
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「左手は開けといてな、これはこっち」
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冷たい右手を掬いあげて、そっとはめた指輪。
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「ピッタリ。 太ったら合わなくなっちゃうね、気をつけなきゃ(笑)」
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 「ふふっ、そやな。 気つけや。 夜中にラーメンとかな」 
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 「壱馬は食べても太らないじゃん、ずるいよ」そう言って膨れて。
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 と思ったら「お揃いっ」て俺の右手に重ねた手。
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 弾んだその声を聞いたら、ほんまに喜んでくれとんやろなって、それが俺も嬉しくて。
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「じゃあ、毎年のやつ撮ろうか」 
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「ちょっと待って。 目真っ赤だもん」
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「ええんやって。それもまた思い出やろ?」
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『えー』って渋る栞を抱き寄せて、2人で撮った写真。
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真っ赤な目をして右手を頬に当てて、最高の笑顔を向けてくれる。
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隣にいてる俺も、自分でも不思議な位、こんな笑えるんやってそう思える。
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栞の隣におれば、こんな風に俺は笑えるんやなって。
自画自賛なんはわかってるけど、ほんまいい写真やって思う。
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こんな写真がこれからも増えてくんやなって、いつかは家族が増えて…そんな夢を見始めてた。
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『ゼミの懇親会にちょっとだけ顔だしてくる。 すぐ帰るから。寝んで待っててよ』
そう送ったLINE。
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『了解。 飲みすぎ注意だよ。 お土産、アイスね。 ピノの新作!』
帰ってきた返事に緩む頬。
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「ピノの新作て何味やねん(笑)」
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『ピノ 新作』 すぐにそうググる俺は、ほんま重症やってそう思う。
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…next
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